「海外のクリエイターたちは『こんなことまでできるんだ』と驚きの声をあげていた」と振り返るが、特に印象的だったのは職人側の変化だ。吉本は「この1年間、難しい要求に応えるのに日々必死すぎて、自分たちがどういうものをつくっているのか考える余裕がなかった。しかし展示会で客観的に自分がつくったものを見たり説明したりすることで、初めてその価値を理解した」という言葉が忘れられないという。
「工芸とは技術革新の連続。今伝統と呼ばれているものもかつては必要に迫られ生み出された先端技術の賜物でした。その技術革新を後押ししていたのは経済的な需要による必然性ですが、今はそれがほとんどなくなってしまった。外からやってきたアーティストやデザイナーが職人の挑戦を後押しすることで、新しい可能性が生まれるかもしれない」。今年は東海地方の工芸産地との取り組みを進めている。
だが、吉本は工芸の活動を到達点とは考えていない。来年4月には、教壇に立つ東京大学先端科学技術研究センターのフロンティアデザインラボで、工芸を含む地域産業と宇宙工学の両方に注目したプロジェクトを立ち上げるという。吉本が重視するのは「共通接線」という概念だ。自身のデザインスタジオを「Tangent」と名付けたが、これも数学用語で「接線」を意味している。
「ふたつの円があったとき、そのどちらにも触れている共通接線を引くことがデザイナーの役割です。円の外にいるからこそ、工芸と宇宙といった一見関係なさそうなふたつの領域を結びつけることができる。大きな新領域をつくるのではなく、1本の線でつなぐだけで新しいアイデアが生まれるんです」
今後宇宙産業には多くのプレイヤーがかかわることになる。宇宙飛行士やステーションで生活する人も増えるかもしれない。「宇宙生活をベースにした衣食住のデザインを考える時代がくる。10年、20年先には工芸と宇宙が関係するような新しい事業が生み出せるのではないか」。これからも吉本にしかできない新しい領域の開拓を続けていく。
よしもと・ひでき◎1985年生まれ。2008年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒、16年に英ロイヤル・カレッジ・オブ・アート博士課程修了。15年、英国でTangentを立ち上げた。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。


