ロシアの最初の標的とされたのはポーランドだった。同国は10日、領空を侵犯したロシアの無人機19機を撃墜した。これは2022年のウクライナ侵攻開始後、NATO加盟国が自国領空でロシアの無人機を撃墜した初めての事例となる。この挑発を受け、NATOは東部全域に追加資源を配備し、東欧上空の警備を強化する「東部監視作戦」を発動した。
19日にはロシアのMiG31戦闘機3機が12分間エストニアの領空を侵犯したが、NATOの戦闘機によって迎撃された。これを受け、エストニアのマルグス・ツァクナ外相は、ロシアによる今年4度目で最も重大な領空侵犯だと非難した。
ロシアの無人機による挑発行為の標的は当初、東欧諸国に限られていたが、23日にはデンマークのコペンハーゲン空港上空を3機の無人機が飛行した。これについてはロシアの関与は確認されていないが、同国が西側諸国を刺激し、経済的損失を被らせるためにリスクを負っている可能性も否定できない。わずか3機の無人機により、同空港は4時間にわたり閉鎖を余儀なくされた。
ロシアの無人機の航続距離は500~1600キロに及ぶため、同国は国内のあらゆる地点から無人機を西欧に到達させることができる。ポーランド領空を侵犯した1万ドル(約150万円)相当のロシア製無人機「ゲルベラ」の最大射程距離が約600キロであるのに対し、ロシアがウクライナ侵攻で使用している2万~5万ドル(約300万~750万円)相当のイラン製無人機「シャヘド」は1600キロ以上飛行可能だ。
ロシアはまた、8月31日にブルガリアへ向かっていた欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長を乗せた航空機の全地球測位システム(GPS)を妨害した疑いも持たれている。同機は東欧上空を飛行中、GPS機能に支障が生じたが、無事に着陸した。
従来の戦術はコストが高く効果も限定的であったため、ロシアは現在、無人機、インターネット、心理戦を組み合わせたハイブリッド戦争に注力し、欧州とウクライナに多大な損害を与えようとしている。
ロシアはウクライナに数百機の無人機を投入しているが、ウクライナ側の迎撃成功率は80~90%と、迎撃技術に長けていることを証明している。同国は7月、ロシアの首都モスクワに大規模な無人機攻撃を仕掛け、複数の空港が一時閉鎖を余儀なくされるなど、ロシアの脆弱(ぜいじゃく)性を浮き彫りにした。ロシアが無人機の製造を強化したのと同様、ウクライナも低コストで高品質な無人機を大量生産している。
だが、ウクライナが無人機の製造と迎撃に長けている一方で、NATOはまだその段階に達していない。NATOは依然として戦闘機を用いて無人機を迎撃しており、安価に製造されたロシア製無人機ゲルベラに対抗するだけで、数十億ドル規模の装備を投入しているのが現状だ。
ロシア軍は従来の戦争で消耗する中、ハイブリッド戦争を受け入れるほかなく、兵士ではなく無人機操縦士の訓練に注力している。しかしこれは同時に、現代の戦争の変容する性質に対処するために、NATOはもはや従来型の防衛手段のみに頼ることはできないことを示している。


