「ゼロから再出発」することなく前進を続ける方法もある
このジレンマを抜け出す方法はある。リーダーは、中堅社員がこれまでの経歴を白紙に戻すことなく能力を伸ばせるようなキャリアパスを創造すべきだ。別部門へ異動する人事、部門横断的なプロジェクト、メンター職といった形で、完全なリセットを強いることなく、新たな活力を注入できる。
一方、個人としても、小さな一歩を踏み出すことは可能だ。短期コース、サイドプロジェクト、新しい専門職コミュニティへの参加といった形で、途方もない跳躍を無理に行うことなく、新たなドアを開ける。
再出発が「完全にゼロから」になることはめったにない
こうして自分を試すなかで、再出発が「完全にゼロから」になることはめったにないのだと実感できるだろう。これまで築き上げてきたことの大部分は、たとえ肩書が変わっても、あなたの貴重な財産だ。
最も難しいのは、心理的ハードルを乗り越えることだ。これには、自分の過去を、自分を今の立場にとどめる重しとしてではなく、新たな形に翻訳可能な経験として捉え直す必要がある。
キャリアは、直線的に前進するものではない。ねじれたり、滞ったり、時には再出発することもある。「振り出しに戻る」のように見えるものは、往々にして、違った形での再出発だ。長年の経験からしか得られない知恵は、けっしてあなたを裏切らない。
結局のところ、キャリア構築理論が思い出させてくれるのは、私たちそれぞれが、プロフェッショナルとしての自分の物語の紡ぎ手であるということだ。再出発は、それまでに書き上げた章をすべて消し去ることを意味しない。それは、物語の次の章を、新たな目的意識をもって書き始める行為なのだ。
勇気を振り絞れば、「再出発への恐れ」は別のものに姿を変え、成功を自分のやり方で再定義する自由が手に入るだろう。


