そして、米国事業に加え、新たな収益の柱として山田が期待しているのが「越境取引」だ。メルカリは19年から、海外在住の顧客が日本で出品された商品を購入できる越境取引を始めている。越境取引のGMVは過去3年で約15倍に成長し、25年6月期には900億円に達した。特に「おもちゃ・フィギュア・グッズ」が取引の6割を占め、日本ならではのオリジナル商品が人気だ。海外の顧客はこれまで、メルカリと連携している越境EC事業者を通して商品を購入していたが、台湾では24年8月から、香港では25年5月からWeb版のメルカリから直接商品を購入することが可能になった。今後はさらに展開国数を増やす予定で、越境取引によるGMVの拡大が見込めそうだ。「ゲームやアイドルなど日本のコンテンツに関連した商品の海外需要は旺盛。まずはそうした強みを生かして世界に向けて展開していきたい」と山田は意気込む。
「Go Bold」を再び。そしてあらゆる価値の循環へ
創業から12年。メルカリは今、利益を追求する「成熟企業」と、成長を続ける「スタートアップ」というふたつの側面をもち合わせている。「原則として、増益を伴うトップラインの成長を目指す」という基本方針からも、メルカリの立ち位置が見て取れる。
この両立は、決して簡単なことではない。スタートアップがメガベンチャーに成長すれば、市場から求められるものも変わってくるのが当然だ。
一方、山田には創業以来変わらない目標がある。それは「世界的なマーケットプレイスをつくること」だ。「自分がいらないと思うようなものでも、ほかの人が価値を感じてくれるものってたくさんあると思うんです。今メルカリで出品されているのは実態のある『モノ』が中心ですが、モノじゃなくてもいいんです。例えばスキルとか、デジタルなNFTとか、あらゆるものが円滑に循環するような仕組みをつくっていきたいんです」
その実現のため、メルカリは「バック・トゥ・スタートアップ」と「AIネイティブカンパニー」というふたつの旗を掲げ、再びアクセルを踏み込もうとしている。成熟と成長の両方を迫られるメガベンチャーの試練を、山田は創業時のスピリットと最新のテクノロジーを駆使して乗り越えようとしている。この大胆な挑戦の先にこそ、メルカリが描く壮大な未来が広がっているのだろう。
越境取引の現在|2025年6月期のマーケットプレイスにおける越境のGMVは900億円と過去3年で約15倍に成長。今期、さらなる成長へ向けて、台湾、香港で自社越境取引を開始。「おもちゃ・フィギュア・グッズ」が6割を占め、強みであるエンタメホビーカテゴリーの市場規模は17兆円(23年)、なかでも日本のIPシェアは24%あり、成長ポテンシャルがある。
メルカリ◎2013年2月創業。日本初のユニコーン企業として18年、東証マザーズに上場。22年、東証プライム市場に移行。月間平均利用者数約2,300万人を誇る国内最大のフリマアプリ「メルカリ」を運営する。創業の翌年には米国でもサービスを開始した。このほか、スマホ決済サービス「メルペイ」、暗号資産「メルコイン」、スキマバイトサービス「メルカリハロ」など、複数の成長領域に事業展開している。
山田進太郎◎早稲田大学卒業後、2001年にウノウを設立。「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などのインターネット・サービスをリリースする。10年、ウノウをソーシャルゲーム会社の米ジンガに売却。12年に退社後、世界一周を経て、13年2月、メルカリを創業。21年7月、山田進太郎D&I財団を設立。


