改革はすでに成果を上げており、全従業員のAIツール利用率は95%にのぼり、プロダクト開発に伴うコード生成の70%がAIを用いて遂行され、エンジニア1人あたりの開発量は64%増加(25年6月分、前年同月比)した。開発スピードが上がるとともに、生産性が劇的に向上しているのだ。
AI活用は、プロダクト開発の現場にとどまらない。山田が例として挙げたのは、人事評価システムなど組織運営における活用だ。膨大な量のSlackのやり取りやドキュメントをAIが分析し、個人のパフォーマンスを効率的に抽出することも試み始めている。さらに、「経営の意思決定にもAIは活用できる」とその可能性も指摘する。「社内のナレッジをAIが集約し、過去の議論やプロセスを瞬時に引き出せるようにすることで、意思決定の重複や矛盾を防ぐことができると思います」
成長のカギ握る「米国事業と越境取引」
メルカリが経営・組織変革とともに、成長の機会とするのが米国事業だ。25年6月期は、米国事業が通期で初の黒字化。好転の背景には、準備段階を含めると24年秋から、山田自身がUSメルカリのCEOを兼務する体制に移行したことがある。出品・購入といったマーケットプレイス事業のコア体験強化にフォーカスし、手数料モデル変更などを実施。結果、GMV成長率に改善の兆しがみられ、コア営業利益は9億円で初の通期黒字となった。
「米国事業はコロナ禍で2倍近く伸びた後、反動でマイナス成長が続いていました。バリュープロポジション(顧客に提供する独自の価値)、競合優位性をどうつくっていくのかを長時間議論して、ユーザーがアプリを使うコアな体験をもう一度見直しました」
山田が特に力を入れたのが、数年前から横行していた偽サイトを使ったフィッシング詐欺やハッキングなど不正利用への対策だ。ネガティブな体験があると、顧客は簡単に離れてしまうためだ。出品や購入がよりストレスなくできるようなアプリの改善も行った。
米国には、eBayやPoshmark、Depopといった日本より多様なプレイヤーが存在する。「我々がやりたいのは米国市場で圧倒的なポジションを築くこと。黒字に転じただけではビジネスとしても成功とは言えない。GDPで考えても、米国市場は日本のメルカリ以上となる可能性があり、そこまで行ける道筋は少なくとも立てたいと思っています」。まずは主要カテゴリーであるファッションを中心に、競争力のある配送プランや信頼性を高めるサービスを提供することで、差別化を図るという。
マーケットプレイスへの投資の重要性にあらためて気づいた山田は、日本でもアプリの強化に乗り出した。24年12月、ホーム画面のデザインを大幅にリニューアル。欲しい商品が見つけやすくなったり、新たに出品された商品がわかりやすくなったりと利便性が向上した。
「コアに近い部分の開発はすごく時間はかかるが、よりたくさんのお客様に満足してもらえるし、リピートしてもらえる。GMV成長率が1桁にとどまっていますが、まだまだ伸びしろはある」
米国事業の現在|グループCEOの山田がUS CEOも兼任し、プロダクトのコア体験強化へフォーカスし、手数料モデルの変更を実施。GMV成長率に改善の兆しが見られている。25年6月期は売り上げ収益364億円(前年同期比17%減)、コア営業利益9億円(前年同期はコア営業損失44億円)。初の通期黒字化を実現した。


