この「バック・トゥ・スタートアップ」の号令のもと、メルカリは組織的な改革を進めている。メルカリは「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」をグループミッションに掲げる。ミッションを達成するための3つのバリュー(行動指針)として創業期に定められたのが「Go Bold」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」だ。山田はここに新しいバリュー「Move Fast(はやく動く)」を追加した。「いろいろな施策のリリース自体が早くなっているなと感じます。特に『メルカリモバイル』や『メルカリNFT』『メルカードゴールド』といった新規サービスを矢継ぎ早に打ち出せているのは評価できます」
「AIネイティブカンパニー」への変貌の道筋
そんな現状に対し、スタートアップ回帰に加え、山田はさらなる改革に着手する。それが「AIネイティブカンパニー」という方針だ。
山田曰く、25年春ごろ、来季戦略を議論するために出てきた各事業単位の計画に違和感を覚えたという。「生成AIがこれだけ進歩しているのにもかかわらず、なぜエンジニアの人数を増やすリクエストがこれほど多いのだろう、と疑問に思ったんです。今は仕事のやり方から何から全部変えるべきタイミングなんじゃないのか、と。そこで出てきたのが『AIネイティブカンパニー』という方針でした」
メルカリはこれまでも「AIカンパニー」を標榜してロードマップをつくり、環境の整備を進めてきた。17年、プロダクトの改善にAIを活用する「AI専門チーム」を設立したのを手始めに、23年には「生成AI・大規模言語モデル(LLM)専任チーム」を発足。24年には商品写真を撮影しカテゴリーを選ぶだけで自動で出品商品情報が生成される「AI出品サポート」や、25年には不正利用者対策のための「AI監視システム」を導入した。山田は「変革の機が熟した」という確かな手応えも感じたという。
「今年に入って、自律的なプログラミングといったエンジニアリングの分野から、音声入力による資料づくりなどの事務的な仕事に至るまで、人間の生産性のかなりの部分を『AIでできるよね』とみんなが実感し始めました。生成AIが進歩していくなかで、ティッピングポイント(転換点)を越えた感覚がありました。『今、会社全体でレバレッジしていくタイミングなのでは』と思ったのです」
山田は25年8月、メルカリの組織改革をドライブさせる方針「AIネイティブカンパニー」を対外的に発表した。これは、単にAIをツールとして活用することにとどまらない。AIをすべての基盤、会社のオペレーティングシステム(OS)として、組織とプロダクトを根本から変革していくという取り組みだ。100人規模の「AIタスクフォース」を社内につくり、プロダクトや業務プロセスをAIを前提に再設計する抜本的な改革に着手した。
「当初、(新しい期を迎える)7月からのスタートを予定していたのですが、なるべく早く始めたほうがいいと、急いで100人くらいメンバーをアサインしました。カオスな状態ではあるものの、次々と新しいプロダクトやニュースが出てきて、メンバーもエキサイティングな瞬間を楽しんでくれています」
「AIネイティブ」化への取り組み|2025年6月決算発表時(同年8月)に公表された、ありたい姿としての「AIネイティブカンパニーの実現」。その実現に向けて、AIを基盤に組み入れ、安心・安全なプラットフォーム再構築へ向けたプロダクト変革を断行。そして、100人規模のAIタスクフォースを発足して働き方を再設計し、事業成長のための組織変革を進める。


