国内初ユニコーンからメガベンチャーとなったメルカリ。2025年8月に発表した「AI」を軸にした大改革の先にあるものとは。
本記事は、現在発売中の『Forbes JAPAN』2025年11月号に掲載しているインタビュー記事である。
AIをすべての基盤とする「AIネイティブカンパニー」になる──。メルカリは2025年8月、新たな方針を発表した。同社はこれまでも、プロダクト改善や不正利用の監視システムなどに積極的にAIを活用し、社内に浸透させてきた。共同創業者で代表執行役CEO(社長)の山田進太郎は「転換点を越えた」として、AIを「会社のインフラ」にすることを決めた。
大胆な改革には理由がある。従業員2000人超に拡大し、組織の動きが鈍くなったのではないかという危機感があった。また、過去最高益をたたき出したその裏で、屋台骨である国内マーケットプレイス事業の成長が鈍化。メルカリは今、メガベンチャーのジレンマを抱えているのだ。24年、山田が「スタートアップ回帰」を掲げたのもこのためだ。
「バック・トゥ・スタートアップ」の現在地
25年8月に発表されたメルカリの同年6月期決算は堅調そのものだった。連結売上収益は1926億円(前年同期比3%増)、コア営業利益は275億円(同46%増)と、いずれも過去最高。特にコア営業利益は3期連続で過去最高を更新した。好業績の要因は、国内のフィンテック事業が売上収益・利益ともに高い成長を遂げ、クレジットカード「メルカード」の発行枚数が500万枚を突破するなど、顧客基盤の順調な拡大が挙げられる。しかし、この結果は山田にとっては満足いくものではなかった。その理由は、メルカリの成長をけん引してきた国内のマーケットプレイス事業のトップラインの伸びが鈍化していることにある。
「結果としては、まさに『堅調』という感じですが、売り上げという意味では物足りない部分もありました」。インタビューの冒頭で、山田が率直に語った通り、売上収益は2000億円超としていた予想に届かず、通期のGMV(流通総額)成長率も、当初目標としていた10%を下回り、4%にとどまった。26年6月期もこの傾向は続きそうだ。GMV成長率は3〜5%を目指すという。
だが、スマートフォンを使って個人が物品を売買するフリマアプリの市場を5年で築き、国内初のユニコーンを育てた山田が、手をこまねているはずがない。山田が昨年から掲げるテーマが「バック・トゥ・スタートアップ」だ。創業から12年、上場から7年が経過し、メルカリは現在、時価総額は4000億円規模、従業員数は2000人を超えるメガベンチャーとなった。しかし、組織が大きくなるにつれて、意思決定のスピードが遅くなり、創業期に掲げた「Go Bold(大胆にやろう)」というバリューが発揮しづらくなっていたと、山田は振り返る。「コロナ禍でオンライン中心のコミュニケーションになり、サイロ化のようなものが進み、組織の動きが遅くなっていると感じていました。もういっぺんスタートアップに戻ろうと思ったのです」



