2025年9月25日発売のForbes JAPAN11月号は、文化の力で世界を駆ける「カルチャープレナー」たちを特集。文化やクリエイティブ領域の活動によって新ビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる若き文化起業家を30人選出する企画で、今回で3回目となる。これまでの受賞者は、茶人の精神性を軸にお茶事業を世界に拡大し続けるTeaRoomの岩本涼や、盆栽プロデュースでラグジュアリーブランドともコラボする「TRADMAN’S BONSAI」の小島鉄平、障害のある「異彩作家」たちが生み出すア ートを軸にビジネスを展開するヘラルボニー(松田崇弥、松田文登)などがいる。
今回も、映画『国宝』で吾妻徳陽として所作指導を担当した歌舞伎俳優の中村壱太郎など、プロデューサーやコネクターを含む多彩な顔ぶれが揃った。伝統からアニメやAIまで、日本経済の未来を照らす「文化の底力」を感じてほしい。
『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』など歴代担当作品が累計1億部超えの漫画編集者である林士平。彼が漫画家の卵たち19人が暮らすアパートメントの「寮長」に就任したわけとは。
東京23区内で、駅まで徒歩10分圏内。周辺は緑に包まれた住宅街。そんな恵まれた環境にあるのは、本気で漫画家を目指す若者たちが暮らす集合住宅「MANGA APARTMENT VUY」(以下VUY)だ。
1期生は2025年4月に入居した19人。そのうち半数が商業誌で読切を発表していたり、漫画賞を受賞していたりと今後の活躍が期待される作家たちだ。
「入居期限は最大4年。生計を立てられるようになってそれより早く退去する人も出てくる見込みなので、毎年募集をかけ、毎年プロを輩出する場所でありたいと思っています」
そう話すのは、寮長兼プロデューサーの林士平。集英社の「少年ジャンプ+」編集部で『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』などのヒット作を立ち上げた漫画編集者だ。22年に退社してミックスグリーンを起業。社員編集者時代に手がけた作品を継続して担当しながら、漫画作品のアニメ化をはじめ舞台化やイベントなどのプロデュース業もこなす。
そんな多忙な漫画編集者が、なぜ「寮長」に挑戦したのか。その動機は長年漫画家と向き合うなかで感じていた課題にあった。
「これまで出会った漫画家さんのなかには、プロになった方も、ならなかった方もいる。ならなかった人たちを減らせば、より多くの面白い漫画を世の中に届けられると思ったんです」
日本の漫画・アニメ市場は国内外で拡大を続けている。特に、アニメの国内外の市場規模は3兆円を超え、(日本動画協会「アニメ産業レポート」より)、世界中の読者が新しいジャパン・アニメを待っている。その原資となるのは多くが漫画で、新しい作品が待望されているが、お金と生活の問題からプロになることを諦める漫画家も多い。
「もちろんご自身の人生ですし、僕にはどうすることもできません。だけど、そんな作家さんに、もしお金にとらわれず漫画に集中できる1、2年を渡せていたら、腕を磨いてプロになれていたかもしれないと思うことがあるんです」
こうした話をサイバーエージェントの担当者にしたところ、すぐに協業が決まった。
VUYは入居者の居住費や光熱費、食費などは原則無料で、生活費を気にせず漫画制作に没頭できる。必要とあれば、作画に関する機器も支給される。また、林がすべての入居者の担当編集も請け負い、定期的に打ち合わせを行う手厚い体制だ。



