映画

2025.09.26 14:15

映画「ジョーズ」の公開50周年特別展でスピルバーグが振り返った撮影秘話

スティーヴン・スピルバーグが、2025年9月10日にカリフォルニア州ロサンゼルスのアカデミー映画博物館で開催された「ジョーズ:ザ・エキシビション」のプレスプレビューでスピーチした。(Photo by Monica Schipper/Getty Images)

サメに対するスピルバーグの後悔

映画公開後、「ジョーズ」は空前の大ヒットを記録し、スティーヴン・スピルバーグ監督を一躍ハリウッドの寵児へと押し上げた。しかし一方で、作品が社会に与えた影響は必ずしも肯定的なものばかりではなかった。

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人々はサメを「恐るべき人食い怪物」として恐怖し、アメリカ各地ではサメ狩りが盛んに行われることとなった。結果として、ホオジロザメをはじめとするサメの個体数は減少し、海洋生態系に悪影響を及ぼしたとも指摘されている。

こうした批判に対して、のちにスピルバーグは「サメのイメージを貶めてしまったことを深く後悔している」と語った。彼の言葉は、作品が生み出した負の側面を真摯に受け止める姿勢を示している。現在では環境団体や研究者による啓発活動も広がり、むしろ「ジョーズ」がサメ保護の議論を活性化させる契機となったとも言える。

スピルバーグは今回の特別展の講演で「映画は真に協働の芸術であり、監督1人のものではない」と力強く語った。機材トラブル、天候不良、俳優同士の軋轢と、通常なら製作が頓挫してもおかしくない状況を支えたのは、スタッフ同士の連帯感であったという。

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海上での長い待機時間、果てしないカードゲーム、船酔いに苦しむ仲間たち。混乱のなかで培われた絆こそが、最終的に作品を完成へと導いたとスピルバーグは言う。その言葉には、若き日の苦い記憶と、それを糧にした50年のキャリアへの感慨もにじむ。

「ジョーズ」は単なるパニック映画の枠を超え、ブロックバスター作品という新しい概念をハリウッドにもたらした。公開初日に長蛇の列ができる現象は、今日の大作映画公開の原型ともいえる。また、ジョン・ウィリアムズによる2音のテーマ音楽は、世代を超えて人々の記憶に刻まれ、いまも「恐怖の音」として瞬時に受け止められている。

今回の50周年の特別展「Jaws: The Exhibition」は、映画を愛する人々にとって「懐かしさ」だけではなく「学び」も与えてくれる。

CGがあればもうなんでもあり、そんな雰囲気に支配された感のある映画産業だが、すべての映画には予算があって、すべてCGでやれるわけではないし、役者はさきほどの例のように、うまくやれない人たちも多く、誰かが調整をとらねばならない。膨大な出演料の交渉もある。映画づくりがいかに困難であり、同時に多くの人々の協働によって初めて成立するという事実を、スピルバーグ自身があらためて強調したことは象徴的である。

50年の歳月を経たいま、私たちはその栄光とその裏にある「駄目かもしれない」というリスクの双方を、手触り感を持って振り返ることができる。2倍速での視聴も結構だが、エンタテインメントのために勝算なき山を登ることに決めた人たちへの感謝が少し足りなくはないかと反省させられる機会を得られている。

特別展開催に際して、50周年を振り返ったスピルバーグ監督の第一声が、「人生でこれほど多くの嘔吐を見たことはなかった」と語ったという。口元は笑みをつくっていたものの、その影には船酔いの苦しみと映画が頓挫するかもしれないという不安がにじんでいたと伝えられる。

ちなみに、異常気象が海流にも影響を与えている今日、アメリカではサメが普段なら来ないようなビーチにも現れ、ときどき人間を襲い、殺すかケガをさせる。日本での昨今の「えっ?」というクマ騒動と同じ感覚だ。

姿は見えない。いきなり現れる。現れたらもう生きるか死ぬかだ。そういう背景があるので、サメの恐怖は今日まったく褪せることはなく、この映画「ジョーズ」のインパクトをいつまでも新鮮にしている。

文=長野慶太

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