映画「ジョーズ」が公開から50周年を迎え、ロサンゼルスのアカデミー映画博物館では、これを記念した特別展「Jaws: The Exhibition」が開幕し、2026年夏まで続く予定である。
最近は、YouTubeなどのSNS動画や、ネットフリックスやアマゾンプライムなどの配信のおかげで、映画やストリーミング動画の数が圧倒的に増えており、それらを容易く視聴できる環境も整っている。
とはいえ、それでもやはり多くのアメリカ人の多くの心に残っている映画といえば、いまだに「ゴッドファーザー」(1972年)であり、今回の「ジョーズ」(1975年)なのである。
特別展で語られた撮影の真実
この配信全盛の時代に、映画館での上映にアメリカでもっとも拘っている映画監督でもあるスティーヴン・スピルバーグは1946年生まれの御年78歳。彼の出世作でもある「ジョーズ」は、まだCGもなかった時代に、模型や機械仕掛けでの特殊撮影で観客を恐怖に陥らせた伝説の映画である。
「Jaws: The Exhibition」の展示は200点以上の資料で構成され、撮影で使用された浮標や背びれの模型、そして25フィートに及ぶ実物大の機械式サメ「ブルース」など、ファンにはたまらない品々が並ぶ。制作ノートや脚本、編集機まで実際に使用されたものが飾られ、さらには内覧会では、サウンドトラックを大オーケストラで演奏したが、その演奏者のうち2人は当時の録音にも参加していた人物だという。
来場者はまた、名場面を自ら体験できる仕掛けにも出会える。スピルバーグ監督が「ジョーズ」で使用した「ドリー・ズーム(被写体の大きさはほぼ変わらないのに、背景の遠近感を変えることで、背景が迫ってくるように錯覚させる)」を再現した撮影装置に自分の顔を映し出すことができる。
また、作中に登場するオルカ号の船内セットで登場人物の気分も味わえる。これらが、単なる展示にとどまらず、「体験の場」としても構成されている点は、インタラクティブなエンタテインメントを目指す近年の映画博物館の潮流をよく示している。
今回、この華やかな特別展は、単なる懐古にとどまらない。これをきっかけにスピルバーグ自身の口からさまざまな驚きのエピソードも語られた。特別展での記念公演に寄せて彼が語ったのは、「ジョーズ」の製作は「呪われた現場」と呼ばれるほどの困難の連続であったということだ。
1975年当時、まだ26歳の新進監督だった彼は、海上撮影に挑む大胆な決断を下した。だが、現場の大西洋は彼の想定をはるかに超える苛烈さを見せつける。機械仕掛けのサメのアニマトロニクスは頻繁に故障し、背景には一般の船も映り込み、悪天候が続いたという。
結果として、撮影は100日以上にも延び、それとともに予算も膨れ上がった。監督としての地位どころか、キャリアそのものが危ういのではないかと毎晩不安に苛まれたとスピルバーグは振り返る。
撮影現場での摩擦もいまや伝説的でもある。地元の漁師クイントを演じたロバート・ショウと、若き海洋学者マット・フーパー役のリチャード・ドレイファスは、互いの性格の違いから現場でしばしば衝突した。ショウは酒豪であり気難しいベテランで、ドレイファスは神経質なまだ新進の俳優だった。
互いに挑発し合う2人の関係は現場を混乱させたが、その緊張感は結果的に作品にリアリティを与えたとされている。後年、スピルバーグは「この摩擦がなければあの名演は生まれなかった」とも述懐している。



