「食を通じて、いのちを考える」を掲げる大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「EARTH MART」と Forbes JAPANが連動し、食の未来を輝かせる25人を選出した。生産者、料理人、起業家、研究者……。本誌 11月号では、豊かな未来をつくる多様なプレイヤーを紹介する。
ラーメンの世界で圧倒的な影響力をもちながら、独自路線をいく「飯田商店」の飯田将太。日本の国民食を“文化”にしていくために、「型をつくりたい」という飯田の考えとは。
飯田将太の一日は、朝7時の仕込みから始まる。チャーシュー、ネギ、海苔……具材を準備する弟子の様子を確認しながら、その日の天候やスープに合わせて製麺するのが飯田の仕事だ。
オープンは11時。そこから15時まで、1時間ずつの回転制で、約70人の客を迎える。予約はオンラインで毎週日曜に翌週分を受け付けており、数年待ちの“予約の取れない店”ではないが、ラーメン好き曰くそれは「宝くじが当たるぐらい」得難い席なのだという。
「天皇陛下に召し上がっていただく」
帝国データバンクの調査によると、2024年度の全国ラーメン店市場は7,900億円。10年前の1.6倍に拡大した。半面、個人経営店の廃業は少なくない。湯河原の住宅街に構える「飯田商店」は、その競争激しい市場で、各種ランキングの連続1位や殿堂入りを果たし、“日本一のラーメン店”と称される。
市場拡大の要因としては、大手チェーンが牽引する海外展開やインバウンドの影響も大きく、都心の人気店には外国人も行列する。「日本にスパゲッティが浸透したように、海外にラーメンが広がる礎を築かれた先輩方に感謝している」と飯田。一方で、明確な定義のないラーメンがあまりに多様に広がっては、それぞれが脆く消えかねないと懸念し、蕎麦や寿司のような「型をつくりたい」と考えている。
「文化になるには長い時間が、その長い時間に耐えるには芯のある型が必要だと思っています。ラーメンの原初は骨や野菜クズを使ったスープにある。捨ててしまうようなものを使わせたら負けないというのが、ラーメン屋の気概。パンクですね」
飯田はそのラーメンを「天皇陛下に召し上がっていただくこと」を目標に掲げる。数年前に知人経由で上皇妃へ届けることができたが、「ラーメンは目の前で店主がつくって出すもの。いつか天皇に直接ご提供できたら」と思いを温める。話題をつくって目立ちたいわけではない。そのお墨付きが、“国民食”ラーメンをさらに“文化”として根付かせる後押しになると信じている。
広げて薄めず、「濃く」伝える
飯田商店の外国人客が2〜3割に増えるなか、飯田自身の海外との接点も増えた。24年7月には、先述の知人の紹介で、英王室主催のポロイベントでラーメンをふるまった。異国での提供が初めて、かつ検疫的な制約もあり、妥協せざるをえないこともあったが、うれしそうに食す人々の姿に「通じるんだ」と手応えを得た。



