2025年9月25日発売のForbes JAPAN11月号は、文化の力で世界を駆ける「カルチャープレナー」たちを特集。文化やクリエイティブ領域の活動によって新ビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる若き文化起業家を30人選出する企画で、今回で3回目となる。これまでの受賞者は、茶人の精神性を軸にお茶事業を世界に拡大し続けるTeaRoomの岩本涼や、盆栽プロデュースでラグジュアリーブランドともコラボする「TRADMAN’S BONSAI」の小島鉄平、障害のある「異彩作家」たちが生み出すア ートを軸にビジネスを展開するヘラルボニー（松田崇弥、松田文登）などがいる。
今回も、映画『国宝』で吾妻徳陽として所作指導を担当した歌舞伎俳優の中村壱太郎など、プロデューサーやコネクターを含む多彩な顔ぶれが揃った。伝統からアニメやAIまで、日本経済の未来を照らす「文化の底力」を感じてほしい。
多くのデザインプロジェクトを通じて、日本の美意識や文化的価値を世界に発信してきた原研哉。カルチャープレナーのレジェンド的存在である彼は、これからの日本経済において「文化」がもつ可能性をどのように考えているのか。
僕は「和紙」という言葉があまり好きではありません。もちろん和紙そのものやそれをつくる技術は素晴らしい。ただ、なんでもかんでも「これ、和紙でつくりました」といって喜ぶ様子を見ると、かつての「フジヤマ・ゲイシャ」を思い出してしまう。
富士山は今も素晴らしい景観をたたえているし、芸者文化もきちんと高い対価を取れる伝統産業として続いてきました。ただ、企業が接待の道具としてそれらを使い始めたことで、価値ある観光資源がステレオタイプ化した安っぽいサービスに転化して見えてしまう。昨今の和紙の扱いを見ていると、同じように「ワシ」になってしまうおそれがある。もったいないですよね。
大切なのは目利きでしょう。手すきの紙には実にさまざまな種類があるし、機械すきの紙にもいいものはたくさんあります。それぞれ風情の違う紙から素晴らしさを取り出して、いかに価値に置き換えて製品化していくか。それができたときに価値は最大化されます。例えばApple製品の外箱は森林認証のある北欧の針葉樹のバージンパルプを使っています。箱を開けるときにスーッと滑らかに開けられる精度の高さは、バージンパルプだから出せるものです。一方で中の詰め物は再生紙が使われていて、循環型社会への配慮も伝わってきます。まさに紙を目利きして使い分けて、プロダクトの価値を高めているわけです。
日本人自身が日本文化を軽んじている
もともとは日本人も、提灯に貼る紙、便箋に使う紙、扇子に使う紙というように、紙を使い分けてきました。ところが今では和紙とひとくくりにしている。日本人は自分たちの文化を見失っている状態です。
紙に限った話ではありません。日本の百貨店に漆塗りのお盆を買いに行っても、ときめくものがない。バイヤーは工芸の冴えや美しさを、お客に示唆する啓蒙性よりも売れ筋を並べることを優先しているのかもしれません。だからお客さんはお盆の魅力に出合うすべがない。はっきり言って、日本人自身が日本文化を軽んじているように感じます。
