経済

2025.09.24 13:45

【伊藤隆敏氏を偲んで】マクロ経済第一人者で米コロンビア大教授、弊誌コラム再掲

Illustration By Bernd Schifferdecker

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本誌に長年ご寄稿いただいた経済学者・伊藤隆敏氏が、2025年9月20日に逝去されました。享年74。葬儀は近親者のみにて執り行われました。

伊藤氏は、国際金融・マクロ経済学の第一人者として、コロンビア大学SIPA教授、政策研究大学院大学(GRIPS)名誉教授、東京大学名誉教授を務められ、1999〜2001年には大蔵省大臣官房参事官(副財務官・国際担当)として国際金融政策に尽力されました。

学術面では、円の国際化、企業のインボイス通貨選択と為替リスク管理、公的年金や政府系ファンドに関する研究を通じ、日本と世界の政策・実務に大きな示唆を与え続けられました。

長年のご寄稿に深く感謝し、謹んで哀悼の意を表します。なお本稿にて、Forbes JAPANの巻頭で連載されていた代表的なコラムを再掲いたします。


Forbes JAPAN2025年2月号で掲載された、「日鉄によるUSスチール買収劇」に関するコラムでは、当時、トランプ政権移行の真っ只中にあったその事象を追いながら懸念点をあげ、解決の重要性を指摘されていました。特に労組問題に関してです。

伊藤氏の着眼点、分析力に長けたコラムは、その後の動きとリンクします。今年9月初旬、買収に関する訴訟はすべて終了し、注目だったUSスチールの労組会長による訴訟も撤回されました。

私たちに与えてくれた視座、その伊藤氏の目は確かでした。

(Forbes JAPAN 2月号 コラムより転載)

日本製鉄のUSスチール買収計画は「いばらの道」

世界の粗鋼生産量で第4位の日本製鉄が24位のUSスチールを買収すると発表したのは1年前のことだ。買収価格は141億ドル(約2兆円)の大型買収になる。買収でオファーしている株価は、市場の株価に約4割のプレミアムが乗っている。日本製鉄がどうしてもUSスチールを買収したいという意欲が見える。アメリカ国内の保護主義の高まりで、2024年11月の大統領選挙で、たとえ民主党が勝っても、共和党が勝っても、日本からの輸出には高関税が課される可能性があるので、アメリカ国内に生産拠点をもって関税の影響を受けないようにする(関税ジャンピング)というのが、買収計画の目的だったように見える。トランプ第二期政権が誕生すると、より大きな関税引き上げが起きる可能性がある、ということは、わかっていたので、大統領選挙の前に買収を終えたいと考えていたのだろう。

しかし、買収計画は、暗礁に乗り上げる。第一の問題は、政治的な反発だ。大統領選挙運動期間中に、民主党のバイデン大統領も買収計画に反対を表明、共和党の候補者たちも、全員反対を表明した。11月の大統領選挙で圧勝したトランプ次期大統領は、日本製鉄によるUSスチールの買収を断固阻止する、と明言している。買収計画の発表のタイミングは悪かった、と言わざるをえない。

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コラム=伊藤隆敏

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