銭湯は、多様性を受容する「小さな社会」
小杉湯原宿店は、原宿の中心地にありながら、一過性の人気を避けるためにオープン当初は地域住民に利用を限定していた。それは、100年続く「街の銭湯」を作るためだ。
そのために開業前からスタッフのほとんどが原宿に居を移し、町内会の行事に参加するなどして地域との関係性を築いてきた。
「銭湯って、小さな社会だと思うんです。年齢も家庭環境や経済状況も多様なバックグラウンドの人がみんな同じ湯に浸かっている。基本的に銭湯では、誰も排除されない。『そういう人もいるよね、だって社会なんだもん』って、誰もが自然に思える。それこそが、社会にとって一番優しい形だと思います」
その理想を実現し文化を未来へつなぐため、関根は2024年10月に小杉湯原宿の事業を担う新会社「ゆあそび」を設立し、代表取締役に就任した。高円寺の「家業」から、原宿の「事業」を分社化したのだ。
「家業として銭湯を経営されている方は多くいらっしゃいますし、それも素晴らしいことだと思います。小杉湯も今日まで長らく家業として経営しており、家業の強みをひしひしと感じています。ただ、小杉湯原宿のような新しい取り組みでは”事業”というチャレンジも必要だったのです。高円寺と原宿は、違う場所だから違うものであってもいい。それを一つの会社に入れているから、アレルギー反応が起きてしまうこともある。でも、分けてしまえば、別の人格として手を取り合えるんです。このモデルが、伝統産業を継ぐ人たちの新たな光になれたら、こんなに嬉しいことはないですね」
せきね・えりこ◎1995年、上海生まれ。2020年にペイミーに入社し、同年末に取締役COOに就任。22年に銭湯経営を目指し独立。24年から高円寺の老舗銭湯「小杉湯」で銭湯の運営や新規事業開発に従事。24年に小杉湯原宿の番頭となり、25年にゆあそび創業。



