今年、ロシアとウクライナの和平に向けた交渉は停滞し、一部ではウクライナは「切れるカードがない」状態で交渉に臨んだとする見方もあった。だがそれ以降、ウクライナはロシアの製油所に対する攻撃を次々と成功させ、ロシアの最も重要な歳入源のひとつを損なうことで、自国の立場を強めてきている。
一方のロシアは、夏季攻勢や戦略ドローン(無人機)攻撃にさらに多くのリソース(資源)を投入しているものの、成果は最小限にとどまっている。製油所への爆撃による被害と、消耗が大きく戦果に乏しい戦況が重なり、ロシアは財政面で不安定な状態に陥っている。逆にウクライナは、今後の交渉で非常に必要とされている圧力手段を手にしている。
ロシアの製油所に対するウクライナの戦略打撃
ウクライナはこの夏を通じて、ロシアの製油所を狙った長距離ドローン攻撃を組織的に展開し、ロシアの燃料インフラに大きな混乱を引き起こした。報道によれば、8月にはロシアの製油所少なくとも10カ所が攻撃を受け、ロシアの製油能力全体の約17%、日量換算で110万バレル相当が妨害された。
首都モスクワから比較的近い西部リャザニ州のリャザニ製油所や、南部サマラ州のノボクイビシェフスク製油所は繰り返し攻撃を受け、複数の重要な蒸留装置が稼働不可能に陥った。また、南部ボルゴグラード州の製油所も最近の攻撃で操業停止に追い込まれた。
ほかにもロシア各地で多くの製油所が攻撃されている。攻撃は9月に入っても続いており、多くは同じ施設が再度攻撃されているが、新たな施設の被害も出ている。
ウクライナがロシア国内深くの目標を攻撃できるのは、自国のドローン産業の進歩に負っている。一連の攻撃にはウクライナの国産ドローンのひとつ「リューティー」などが多く使われているようだ。使っているのは自国製の兵器なので、ウクライナは攻撃にあたって他国の許可を得る必要もない。
リューティーはこれまでに、相当な量の弾頭を積んで2000km超離れた目標を攻撃できるように改良されている。また、目標識別や終末誘導用に低コストのAI(人工知能)チップも搭載されており、ジャミング(電波妨害)環境での運用や目標に対する精密な攻撃が可能になっている。これまでのところ、ウクライナの技術者たちはロシアの対ドローン技術の一歩先を行っており、ウクライナはこの優位性を維持できれば、当面、ロシア国内深くを引き続き攻撃できるだろう。



