米ニューヨーク発の清涼飲料水メーカーVita Coco(ビタ・ココ)は、米国でココナッツウォーター市場を切り開き、コカ・コーラやペプシすら退けた先行企業として知られる。健康志向ブームやセレブ投資家の後押しを受け、米国で同社は自然食品市場の象徴的存在となってきた。だが現在、その事業基盤はトランプ政権の関税政策によって大きく揺らいでいる。米国の関税は単なる貿易摩擦にとどまらず、対象市場は年間数千億ドル(数十兆円)規模に及び、企業の存続を左右する政治リスクとみなされている。熱帯地域に依存するVita Cocoの調達構造は、この巨大な政策の波を真正面から受ける格好となった。
トランプ政権の高関税に直面するVita Coco、収益の96%に影響する調達リスク
あなたがもしも、収益の96%をココナッツウォーターから得ている清涼飲料水メーカーの経営者で、原材料のココナッツの調達をすべて、トランプが高関税を課そうとしている熱帯諸国からの輸入に頼っているとしたら、どうするだろう?
それこそがまさに今、米国で最も注目される小型株企業のひとつで売上高が5億1600万ドル(約764億円。 1ドル=148円換算)の、ココナッツウォーターのトップメーカー、Vita Cocoが直面している状況だ。同社のこれまで最大のココナッツの輸入元のブラジルは今や、トランプ政権による50%の関税の標的となっており、他の6つの供給元もフィリピン(19%)、マレーシア(19%)、ベトナム(20%)、インドネシア(19%)、タイ(19%)、スリランカ(20%)と、軒並み高関税の対象に入っている。
株価は強気を維持、ウォール街は懸念を軽視
それでも、Vita Cocoがトランプ関税の悪夢に直面している現実は、同社の強気な姿勢や株価の動きからは見えてこない。同社株は過去12カ月で約32%上昇しており、より知名度の高い生活必需品銘柄を上回るパフォーマンスとなっている。Vita Cocoの株価は、年初来では市場全体の上昇のなかで、一時約5%下落したことがあったものの、ウォール街は同社を襲う価格の上昇圧力をほとんど意に介していない。
供給網を再編、関税圧力を回避する経営陣の対応
「ブラジルへの関税は、我々にとってほとんど問題にならない。これまで米国向けだったブラジル産の供給を、数週間前から欧州やカナダ向けに振り向ける準備を始めている」と、Vita Cocoの共同創業者で会長のマイケル・カーバンは語る。
一方で、これまで欧州市場向けに供給していたフィリピン、スリランカ、マレーシア産のココナッツは、今後すべて米国向けにシフトするという。「これは我々がすぐに実行できることだ」とカーバンは説明し、こうした代替供給国にも高関税がかかることについては気に留めていないようだ。
相次ぐ値上げでコスト圧力に対応、今後の動向は不透明
「海上輸送コストが下がっていることや、今年初めに導入した価格引き上げによって、最初の10%の基礎関税への対応は済ませてある。我々は十分に良いポジションにあると考えている」と話すカーバンは、今後数カ月間はこれ以上の値上げは想定していないと述べている。しかし、もしトランプが熱帯諸国に対する厳しい関税姿勢を崩さなければ、その見通しは楽観的過ぎるかもしれない。
Vita CocoのCEOマーティン・ローパーは、数週間前の第2四半期の決算説明会で、こう述べていた。「当社が5月に実施したインフレコストに対応するための値上げによって、米国内の食品小売店で販売される当社製品の価格は、四半期を通じて約7%上昇したことがCircanaのデータで示された」。
ただし、この5月の値上げには、現在の四半期に実施されたもう1つの値上げは含まれていない。Vita Cocoの経営陣はこの最新の値上げについて、フォーブスに詳細を明らかにすることを避けた。しかし、現時点では、ウォール街は同社の経営陣を信頼している。
米市場40%を支配、競合のコカ・コーラとペプシは撤退
Vita Cocoは、世界最大級のココナッツ加工業者7社と提携することで、米国のココナッツウォーター市場のおよそ40%を支配しており、GoyaやHarmless Harvestといった小規模な競合を大きく引き離している。
「コカ・コーラはZicoを買収してこの市場に参入しようとしたが、失敗した。ペプシも同様にうまくいかなかった」と語るのは、運用資産が80億ドル(約1.2兆円)を抱えるConestoga Capital Advisorsの株式アナリスト、ラリー・カーリンだ。彼は、Vita Cocoの市場での強固な地位が、迫り来る関税への対応を容易にすると期待している。カーリンはさらに「彼らはサプライチェーンで強固な参入障壁を築き上げた」と付け加えた。


