食&酒

2025.09.24 14:15

日本との意外な縁も見えてくる、歴史とグルメと温泉の町、中国・丹東の歩き方

丹東のグルメといえば、黄海でとれた海鮮三昧に尽きる

かつて「江戸温泉城」と呼ばれた温浴施設

丹東のもうひとつの売りは温泉だ。2016年2月にオープンした江戸温泉城(現在はオーナーが変わり、「新江戸温泉城」という名で営業中)という日本風の温泉リゾートがある。

advertisement
丹東にある日本風の温浴施設。2016年に撮影したもので、当時は「江戸温泉城」という名称だった
丹東にある日本風の温浴施設。2016年に撮影したもので、当時は「江戸温泉城」という名称だった

2010年代には中国各地で日本風の温浴施設が多数オープンしたものだが、館内は日本家屋を模したような畳敷きで、女性客も多い。館内着は日本の浴衣で、岩盤浴やレストランもある。利用料金は59元(約1200円)ほどだ。

川沿いに立地するこの温浴施設の最大の特徴は、眺望抜群の5階の露天風呂から、対岸の北朝鮮が丸見えなこと。それを酔狂というべきかはともかく、のんびり岩風呂に浸かりながら、往来する中朝の漁船や対岸の北朝鮮の新義州の様子を眺めることができるのだ。

しかも、ここはただのスーパー銭湯ではない。泉質は保証付きだ。丹東郊外にある五龍背(ごりゅうはい)温泉のお湯をわざわざ運んでいるからだ。

advertisement

五龍背温泉は、戦前に日本が開発した「満洲三大温泉」の1つ。筆者も15年ほど前、五龍背温泉の敷地内にある満鉄(南満洲鉄道)が残した露天風呂に浸かったことがあるが、無色透明な弱アルカリ温泉だ。

ちなみに満洲三大温泉の残りの2つは、夏目漱石や田山花袋のような文学者たちも訪れたことのある熊岳城(ゆうがくじょう)温泉(遼寧省営口市)、そして与謝野晶子やラストエンペラー溥儀が満洲国建国直前に逗留した湯崗子(とうこうし)温泉(遼寧省鞍山市)だ。

ぜひ訪れたいレトロなテーマパーク

これらに加え、丹東でぜひ訪れてほしいのが、20世紀初頭の丹東(当時は安東と呼ばれた)の街並みを再現したテーマパーク「安東老街」だ。再開発したビルに埋め込まれた中華門をくぐると、中華民国時代の街並みが広がり、数多くのレトロなローカルフードの店や茶館などの飲食店が並んでいる。

20世紀初頭の中華民国時代を懐古したテーマパーク「安東老街」
20世紀初頭の中華民国時代を懐古したテーマパーク「安東老街」
「安東老街」の館内は、1930年代の丹東の繁華街の街並みが再現され、飲食店が並ぶ
「安東老街」の館内は、1930年代の丹東の繁華街の街並みが再現され、飲食店が並ぶ

丹東に限った話ではないが、中国の東北地方では2010年代、この種の「百年老街」と呼ばれるテーマパークが各地にオープンしている。それは、外国人租界のあった上海や青島、天津などで2000年代に流行していた1920年代を懐古するレトロブームの東北地方版ともいうべきものだ。

ただし、東北地方の場合は、南京条約(1842年)や北京条約(1860年)で開港された沿海都市のケースとは違い、ロシアの南進が顕著となった清朝末期の19世紀後半以降、山東省などから移民労働者が大挙して渡り、満洲各地に華人街ができた。その時代のにぎわいを懐古して「百年老街」と呼んでいるのだ。

2000年代の上海レトロブームの頃も「百年老街」というコピーが街に踊っていたことを思うと、その便乗版と言えなくもない。またそれは、日本の1980年代のカルチャートレンドの1つであった都市文化論や1920年代論への関心の高まりともどこか似ていて面白い。

次ページ > 「安東老街」での興味深い発見

文=中村正人 写真=佐藤憲一、中村正人

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事