キャリアの罠となる思い込みその2:「リスクをとるのは危険すぎる」
リーダーシップ開発プログラム、MGMT Accelerator(MGMTアクセラレーター)の創設者、デイヴ・クラインは筆者に、長年にわたって、「安定を選ぶ方が安全な策だ」と信じ込んでいたと打ち明けた。「20年ものあいだ、自ら会社を立ち上げるより、従業員として安定した職種で働き続けた方が安全だと信じて過ごしていた。しかし(会社員生活は)ある日、ある人が下した、たった一つの判断は、自分の収入がゼロになりかねない危険をはらんでいた。では、時を進めて今はどうかというと、クライアントの1社がある日機嫌を損ねて、自社との契約を打ち切ったとしても、そこから被るダメージは今や誤差の範囲でしかない」
クラインの場合は、「リスクは危険だ」という思い込みこそが、実は真の危険だったことが判明したわけだ。
「価値とリスクは、表裏一体の存在だ」と同氏は説明する。「最大のチャンスは常に、不確実性を伴っている。まったくリスクを取らないようでは、真の価値を生み出すことはできない。高い実績を挙げる人たちは、適切なリスクを取ることに秀でている。こうした人は、向こう見ずな賭けに出ることはない(中略)。そうではなく、低コストで高い収益、あるいは学習の機会が得られるような、“非対称”なチャンスを探しているのだ」
クラインが学んだ教訓は明らかだ。それはすなわち、「リスクを避けることで安全地帯にいられるわけではなく、それは、確実に停滞に追い込まれる道だ」ということだ。向こう見ずな賭けと、賢く選ぶべきチャンス(つまり、コストの割にリターンが大きい “非対称”なチャンス)を見分ける術こそが、真に必要な能力だ。
適切なリスクは、キャリアを危険にさらすことはない。むしろ、逆境にへこたれない強さとチャンスを手に入れられるはずだ。
キャリアの罠となる思い込みその3:「集中とは、1つのタスクだけに取り組むこと」
フィリポヴァが教えてくれた、自分を縛るもう一つの思い込みは、「集中するなら、自身を1つの“車線”に追い込まなければならない」というものだ。
フィリポヴァはこう語る。「集中とは、やるべきタスクを減らすことではない。私の知り合いの中でも最も集中力が高い人たちは、実はこうした絞り込みとは無縁の人たちだ」
同氏は例として、営業スタッフたちが「販売業務のみに焦点を当てる」よう命じられたケースを挙げる。しかし、最も優れたセールス担当者とは、販売業務だけでなく、同僚へのコーチングやカンファレンスでのスピーチ、スタートアップへの助言といったタスクを担うことが多い。人によっては、自身の仕事術について執筆する場合もあるはずだ。
それでも、こうした人のもたらすインパクトが希薄化することはなく、むしろそれぞれの活動がお互いを高め合う相乗効果が生まれるはずだ。コーチングはスキルの向上につながり、スピーチは評判を高め、他社への助言は人脈を広げ、執筆活動は思考を明晰にしてくれる、といった具合だ。
AI(人工知能)が社会を動かす力になった今の世界で生き残るには、適応力が不可欠だ。その中でこのように、自身の仕事を「ポートフォリオ」で捉える考え方は、集中を妨げるものではなく、むしろ未来の働き方を示している。
真の意味での「集中」とは、自身が持つ専門知識を核として、複数の側面をより深く探究することにある。決して、自分を狭い箱に押し込めることではない。


