経済・社会

2025.09.23 14:15

「米国の要求を飲んだら弾劾される」 徐々に見えて来た「李在明実用外交」

Photo by Anthony Wallace - Pool/Getty Images

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「(米国の要求通り)合意していれば弾劾されただろう」。韓国の李在明大統領は9月18日に公開された米タイム誌とのインタビューで、米韓関税交渉についてこう語った。李氏とトランプ米大統領は8月末にワシントンで首脳会談を行った。トランプ氏は会談後、韓国が米国に3500億ドル(約51兆7千億円)規模の投資を行う代わりに、韓国にかける米関税率を25%から15%に引き下げることで合意したとSNSに投稿していた。しかし、会談では合意文書などは発表されず、関税率の引き下げも行われないままになっている。

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韓国政府関係者らによれば、韓国側が3500億ドルの投資を渋った背景には、現金による巨額投資に韓国の経済力が耐えられないという判断があった。韓国銀行(中央銀行)によれば、2025年7月末現在の韓国の外貨準備高は4113億3千万ドル。投資額は外貨準備高の85%にあたる。韓国政府元高官は「韓国は日本のように、米国との間で二国間通貨スワップ協定を結んでいない。外貨が足りなくなった時の緊急輸血に不安が残る」と語る。対米投資事業で、元本償却後とはいえ、利益の9割を米国が獲得することにも強い抵抗感があるという。元高官によれば、韓国内では「3500億ドルも投資するくらいなら、25%の関税率をそのまま受け入れた方がマシだ」という声が出ているという。

ただ、こうした韓国側の主張について日本側の専門家からは疑問の声も出る。韓国駐在経験がある経済専門家の一人は「取られっぱなしの関税と、率の問題があるとはいえ利益を回収できる投資を比べるのには無理がある」と語る。この専門家は「そもそも、日本に比べて対米進出企業が少ない韓国が、3500億ドルという巨額投資を一気に決められもしないだろう」と話す。そのうえで、「(外貨不足に直面した韓国が1997年11月に国際通貨基金〈IMF〉に緊急融資を申請した)IMFショックの記憶を強く引きずっているという印象を受ける」と話す。

李氏の外交ブレーンは「日本こそ、5500億ドルの対米投資を飲んで、国民は怒らないのか」と反問するが、日本政府の判断は「すでに実害が出ていた自動車業界への影響を緩和するためには致し方ない」というものだったようだ。交渉期限に余裕がもっとあれば、別の合意もあっただろう。「日本政府が能天気で、韓国政府が慎重だ」という単純な比較はできない。

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文=牧野愛博

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