経済・社会

2025.09.23 14:15

「米国の要求を飲んだら弾劾される」 徐々に見えて来た「李在明実用外交」

Photo by Anthony Wallace - Pool/Getty Images

むしろ、李在明大統領のタイム誌への発言からは、李氏の権力維持にかける並々ならぬ執念を感じる。尹錫悦前政権時代、李氏は様々な疑惑事件を抱え(抱えさせられ)、「週に2回も3回も裁判所に出かけながら、政治を行う状態だった」(李氏のブレーン)という。少しでも、支持率が下がるような無理な交渉は避けたい思惑が働いているようだ。ブレーンの一人によれば、韓国は10月末に慶州で開かれるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議の際、米韓首脳会談が開かれることを想定している。この会談までに関税交渉を決着させる方向で臨む方針だという。

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一方、このように政策(主義・主張)よりも政局(支持率)を重視する姿勢が、李氏が唱える「実用外交」の正体なのかもしれない。李氏は8月末に訪日した際、「良好な日韓関係」を繰り返し、アピールしていた。韓国内にある「李政権は文在寅政権と同じ左派だから、また日韓関係が悪化するのではないか」という懸念を払しょくしたい思惑があったとみられる。米国に対しても、関税交渉が難航しているからといって、すぐに反米路線に舵は切ることはしない。米移民関税捜査局(ICE)は今月、ジョージア州にある韓国企業の工場で韓国人労働者ら475人を拘束した。それでも李政権は今月、予定通り日米韓の合同訓練を実施した。

朝鮮中央通信は22日、北朝鮮の金正恩総書記が「韓国と対座することはなく、何も共にせず、一切相手にしない」と伝えた。だが、韓国大統領府はすぐに「南北の敵対関係を解消して平和的な関係に発展するよう進める」などとした立場を記者団に明らかにした。李氏の別のブレーンは「大統領も南北関係が簡単に改善しないことはわかっている。一方的に北朝鮮に譲歩したり、反米に転じたりすることはない」と語る。おそらく、北朝鮮に牙をむかれても南北関係改善の道を捨てない背景には、「南北関係改善は可能だ」と頭から信じ込んでいる文在寅支持派など与党内最左派の支持を維持するという政治的な思惑があるのだろう。

韓国の世論調査会社リアルメーターが22日発表した李在明大統領の支持率は2週連続で下落して53%だった。発足直後の60%台を維持するのは難しくなったが、同日発表された与党「共に民主党」の支持率44.2%を上回り、なお中道層からも一定の評価を受けていることがわかる。李氏が中道層に支持を伸ばすことをあきらめない限り、「実用外交」はしばらく続くことになるだろう。

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文=牧野愛博

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