このコラムを書くことの愉しみのひとつは、読者の方々から寄せられる感想とそれに続く議論だ。普段はメールのやり取りになるけれど、訪問先で直接、コーヒーやビールを片手にお話しすることもある。先日、ビールを酌み交わすにはちょっと遠い、オーストラリアの読者の方からメールを頂戴した。内容は、主要7カ国(G7)の大半と中国を特異的に捉えている、迫り来る財政破綻についてだった。現在、国内総生産(GDP)で世界全体のおよそ6割を占める国々がGDP比で100%以上の債務を抱えていて、景気拡大局面では異例の大きな財政赤字を計上している。
オーストラリアからの質問は、端的に言えばこういうものだった。次の債務危機はいつ、どのように始まるのでしょうか、と。筆者は英BBCのラジオドキュメンタリー「Waking up to World Debt(仮訳:世界の債務に目覚める)」を制作して以来、このことをずっと考えているが、何が危機の引き金になるのかについてはまだ明確な見解を持てずにいる。ただ、経済学者のルディガー・ドーンブッシュの「不均衡は想像以上に長く積み重なり、それから想像以上に急激に崩れる」という格言を肝に銘じている。
その点で、次の債務危機はメロドラマのようなものになり、Netflixの良質なシリーズのようにいろいろな段階を経ながら展開していくのではないかと思っている。そこでは顕著な特徴もいくつかみられそうだ。たとえば、債務に縛られている多くの経済大国が、一斉に同時にそこから抜け出そうとするという未曾有の事態になるシナリオも考えられる。あるいは、政府から(負債があまり多くない)企業へ経済的な力が移る可能性もある。
引き金になり得る要因はいくつか考えられる。劇的なものとしては、主要な中央銀行に対する信認の喪失が挙げられる。具体的に言えば、日本銀行のような中銀が金融面で何らかの結末を引き起こさずに市場から自国の国債を吸い上げ続けられることを、市場がもはや信頼できなくなるようなケースだ。



