気候・環境

2025.09.29 08:00

トランプ政権で揺れる「気候科学」、私財で下支えするウェンディ・シュミットとは?

ウェンディ・シュミット(Photo by Eugene Gologursky/Getty Images for Fast Company)

ウェンディ・シュミット(Photo by Eugene Gologursky/Getty Images for Fast Company)

ドナルド・トランプ政権2期目の下で、米国の気候科学への公的支援は不透明さを増した。政府予算の削減が現実味を帯びるなか、研究活動の継続が個人の慈善資金に依存するという異例の事態が広がっている。その中心にいるのが、Google元CEOエリック・シュミットの妻で、私財を投じてきた慈善家ウェンディ・シュミットだ。対象は、海洋研究、気候変動対策、科学技術インフラ、若手科学者育成から、ドキュメンタリーや科学報道といったメディア支援にまで及ぶ。

こうした私財の投入は、深海探査や気候データ収集といった基盤研究を支え、公的支援が後退する領域では欠かせない存在となっている。本稿では、なぜ彼女がいま科学への投資を拡大しているのか、その活動の実態とともに、科学の持続性を民間資金に依存する現代米国の姿を描き出す。

「支援なければ不可能だった」深海探査成功の裏に、ウェンディ・シュミットの支援

今夏のアルゼンチン沖の深海探査で、異世界のようなサンゴ林や蛍光色に輝くヒトデなどの数十種の未知の生物が見つかった。その探査チームは、この取り組みを可能にしたのが、高度な画像解析技術や恵まれた天候のみだったとは考えていない。彼らが功労者として名を挙げるのが、ウェンディ・シュミットだ。

「この探査は彼女の機関の支援がなければ不可能だった」と語るのは、アルゼンチンの国立科学技術研究会議(CONICET)に所属する海洋生物学者のマルティン・ブロッガー博士だ。博士はこの探査に主任科学者として参加した。シュミットの「シュミット・オーシャン・インスティテュート(SOI)」が提供した船舶、乗組員、機材、技術の価値を約150万ドル(約2億2500万円。1ドル=150円換算)と見積もった上で、「こうした投資は、公的資金ではほぼ実現不可能だった」と話す。ただし、SOIの支援を受けた科学者は、その代わりに研究成果を一般公開することが求められる。

「それが私たちの約束だ。科学をすべての人のために役立てたい」とシュミットはフォーブスに語った。

こうした理念のもと、SOIが支援した約100件の探査活動の1つである今回の航海は、科学インフラが限られるため、この規模の研究がほとんど実現しないアルゼンチンにとって画期的な節目となった。同時に、シュミットが世界の気候分野で果たす役割の拡大を象徴する出来事でもあった。

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翻訳=上田裕資

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