民間資金の限界、政府の関与なくして未来はない
それでもシュミットは、民間資金の限界を強調する。「私たちが研究資金を提供することはできるし、何が可能かを示すこともできる。でも、私たちだけで成し遂げられることではない」と彼女は述べている。
ゴールドマン博士も同意する。「民間のフィランソロピーは時間を稼ぐことはできても、規制を決めたり、長期的なインフラを構築したりすることはできない。ウェンディ・シュミットが優れているのは、科学に猶予を与えることだ。ただ、それを永遠に続けることはできない。政府が再び関与する必要がある」と彼女は続けた(編注:フィランソロピーとは、社会の土台を変えるための、非営利の戦略的投資)。
科学を社会へ、ドキュメンタリー制作やメディア買収で啓発
そしてこのような切迫感が、シュミットの支援の対象を広げている。そこには、2024年に始動した小規模食品事業者向けの共同利用型商業キッチン「The Hive」や、同年始まったクリエイターや非営利団体のリーダーが拡張現実を活用できるよう支援する「Agog」、さらに気候変動に関する啓発活動などが含まれている。また今年2月には、ドキュメンタリースタジオ「ジグソー・プロダクションズ」を買収し、気候や公共性の高い科学をテーマにした探査報道を支えている。ここは、アカデミー賞受賞歴を持つ映画監督アレックス・ギブニーが率いるスタジオだ。
「理解することで、人は初めて守ろうとする」とシュミットはフォーブスに語った。「何が危機にあり、どんな可能性があるのかを知らせることで、状況を変えられる」。
シュミットのこの幅広い投資は、個々のプロジェクトを資金援助するだけでなく、科学やストーリーテリング、協働のための持続的な基盤を築くという、より大きな野心を映し出している。
「彼女は深海探査の可能性そのものを変えた。しかも、それを人々の協力と公共の利益を中心に据えたやり方で実現している」とアルゼンチンのブロッガー博士は語る。
シュミットの取り組みの効果は、特にアルゼンチンにおいて際立った成果を収めることとなった。生物多様性が脅威にさらされ、科学資金も不安定なこの国で、今回の探査は国民的な出来事となった。
「人々が目にしたのは、サンゴやヒトデだけではなかった。この研究を本気で信じ、支えている人がいるのだと実感できたのだ」とブロッガー博士は語った。


