気候・環境

2025.09.29 08:00

トランプ政権で揺れる「気候科学」、私財で下支えするウェンディ・シュミットとは?

ウェンディ・シュミット(Photo by Eugene Gologursky/Getty Images for Fast Company)

地球の未来を左右する、海洋システムの解明という情熱

「海は天候や気候、大気の流れを左右し、地球が受ける熱の大半を吸収している。それほど重要な存在である海の実態を、私たちはまだほとんど理解していない」とシュミットはフォーブスに語った。長年、海に親しんできた彼女は、航海の経験を通じて、海をダイナミックで相互に結びついたシステムとして捉えるに至った。「海がいかに生命に満ちていて、天候や気候などのあらゆるものを形作っているかが分かるようになった」。

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彼女はまた、海が気候の安定や生物多様性、地球規模のシステムの中心にある一方で、「地球上で最も理解が進んでいない領域のひとつ」であることを強調した。「私たちがそれを守ろうとするなら、システム全体を理解する必要がある。そのためには、これまで見たことのない場所にも目を向けなければならない」。

シュミットの支援を特別なものにしているのは、システム全体を見渡すアプローチだと多くの研究者は語る。「彼女は科学を支配しようとしているのではない。科学が存続することを確実にしようとしている」と、2018年に26歳でシュミット・サイエンス・フェローの一期生となった地球物理学者フレデリック・リチャーズ博士は言う。

次世代への投資、異分野に挑戦する若手研究者への手厚い支援

ローズ・トラストとの提携で始まったこのフェローシップは、優秀な博士研究員を専門外の研究室に配置し、新たな成果を引き出すことを目指すものだ。参加者には、プログラム期間1〜2年の間に11万ドル(約1650万円)の奨学金が支給される。リチャーズ博士の場合、地球物理学から海面上昇のモデリングへと方向転換し、欧州研究会議(ERC)から150万ユーロ(約2億6250万円)の助成を勝ち取った。「Earth2Sea」と呼ばれる彼のプロジェクトは、洪水リスクの高い沿岸地域に暮らす7億人のために、人工知能(AI)を用いて洪水リスク予測の精度を高めている。

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「このフェローシップがすべてを変えた」とリチャーズ博士は振り返る。「彼らは、リスクを取ることを許してくれた。その資金は非常に手厚いもので、『失敗してもいい。大きな夢を持て』というメッセージが込められていた。科学の世界でこのような支援は極めて稀だ」。

リチャーズ博士はまた、シュミット・サイエンス・フェローズの一環として、最大1万ドル(約150万円)の「カタリスト・グラント」と呼ばれる支援を受け、フェロー同士の学際的な協力を支援している。「あのネットワークは資金と同じくらい価値がある。特定の科学分野を超えた大きな挑戦を後押ししてくれる」と彼は語った。

シュミットの組織はまた、2014年に連邦政府の支援を失った大気中の二酸化炭素濃度を追跡する取り組みのKeeling Curveや、地方の公共メディアに対し、橋渡し的な資金を提供している。今年初めに、シュミット・ファミリー財団は「パブリック・メディア・ブリッジ・ファンド」の立ち上げを後押しし、公的補助金の減少で存続の危機に立たされている小規模局を支援している。

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翻訳=上田裕資

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