約4.5兆円の資産家、グーグル元CEO夫妻の壮大な慈善活動
ウェンディと夫のエリック・シュミット(グーグル元CEO)は、巨額の資産を持つことで知られる(フォーブス推計資産:302億ドル[約4.5兆円])。夫妻はこれまでの生涯寄付総額20億ドル(約3000億円)のうち、かなりの部分を環境関連の取り組みに充ててきた。特に、ウェンディが代表を務めるSOIには4億5000万ドル(約675億円)以上を拠出している。ドナルド・トランプ政権2期目を迎え、気候関連の取り組みや科学の独立性を脅かす連邦政府の後退策が再び進められるなか、民間による科学分野の支援の重要性はかつてなく高まっている。
「私たちの取り組みは、これまでと変わらない」と、トランプ政権2期目の影響で方針が変わったかと尋ねられたシュミットはフォーブスに語った。「ただ、切迫感は以前よりも大きい。だからこそ、この取り組みをさらに強化している」。
政治的逆風の下で決意、支援の縮小ではなく拡大を選択
政治的な逆風の中で、シュミットは退かずに拡大を選んだ。彼女は、優先順位を入れ替えるのではなく、既存のプログラムを拡充し、スケジュールを前倒しし、支援がなければ停滞しかねない研究者を後押ししている。このような一貫性のある取り組みで、科学界を支援する彼女は、フォーブスが世界各地で気候変動対策を大きく前進させている50人を称える「サステナビリティ・リーダーズ」リストの2025年版に選出された。
絶やさぬ資金提供、科学界の生命線としての役割
「米国は長い間、気候科学の分野をリードしてきた。だが、米国が後退すれば、そのしわ寄せは世界にまで及ぶ」。こう語るのは、グレッチェン・ゴールドマン博士だ。博士は憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)の会長兼CEOで、ホワイトハウス科学技術政策局の元副局長も務めた経歴を持つ。彼女は、トランプ政権1期目が行った200件以上の科学への攻撃を把握してきた。
「ウェンディ・シュミットの資金提供は、この分野全体を支えてきた」と語るゴールドマン博士は、気候データの収集や科学コミュニケーションのように、政治的介入や予算削減にさらされやすい分野で、シュミットの支援が最も大きな力を発揮したと指摘する。
予想外の反響、ライブ配信がアルゼンチンの若者を魅了
2009年に夫のエリックとともにSOIを設立して以来、ウェンディは多大な成果を上げてきた。約50種の新種の生物(さらに数百種が審査中)の発見を後押ししたほか、1400人以上の海洋科学者を支援し、数千時間に及ぶ深海映像をライブ配信してきた。SOIの探査船に乗った科学者と同時に、10〜12時間に及ぶ深海探査のライブ中継を見守る視聴者数は、多くの場合、数千人程度にとどまっていた。しかし今回のアルゼンチン航海の中継は予想外の注目を集め、再生は1900万回超、視聴時間は680万時間に達した。また、視聴者の多くがアルゼンチンの若者たちだった。
「多くの人にとって、自分たちの国の深海に広がる色彩や生物などの多様性を目にするのは初めてだった。あのような可視化は稀であり、科学を現実的で身近なものとして感じさせてくれた」とブロッガーは語る。
多様な組織を通じて、公的資金の空白を埋める
このような取り組みは、本来であれば公的資金が充てられるべきだが、リスクが高く成果が見込める研究ほど、従来の資金調達の仕組みでは支援が難しくなっている。シュミットは、SOI、シュミット・サイエンス、シュミット・ファミリー財団、イレブンス・アワー・レーシングといった多様な活動を通じて、公的支援が届きにくい領域の資金ギャップを埋めてきた。夫妻の資金提供は、気候モデルの開発や生物多様性のモニタリング、科学データを誰もが利用できる形で収集・共有するためのツールなど幅広い分野に及び、とりわけ海洋研究に重点を置いている。


