しかしメイシーズはこれに抵抗。代わりに業績不振の店舗を閉鎖し、ブルーミンデールズのアウトレット業態Bloomie's(ブルミーズ)に注力するなど、他の戦略を選択してきた。これが功を奏したようで、ブルーミンデールズは直近の四半期で5.7%という堅調な売上高成長率を達成。さらにブルーマーキュリーは18四半期連続の増益を果たしている。
同社が検討している戦略の1つに、「セール・アンド・リースバック(保有不動産を売却して資金を調達しつつ、その物件をリースで使い続ける取引)」があり、これが株価をさらに押し上げる可能性もある。またメイシーズは先頃、1億5000万ドル(約221億円)以上の自社株買いを実施。現在も四半期ごとの配当を継続しており、その配当利回りは約4%となっている。
2023年の記事でも記したように、小売りブランドとしてのメイシーズの再生には、まだまだ長い道のりがある。百貨店という業態を確立させた創業167年のこの老舗は今も、年間売上げ230億ドル(約3兆4021億円)を誇る米国最大の百貨店チェーンだ。しかし、全米のショッピングモールの大型併設テナントとして君臨し、20世紀を代表するブランドとなり、1997年には小売業者のなかでいち早くネットショップを立ち上げたメイシーズだったが、いつしかゆっくりと落日の道を歩み始めていた。
根本原因はその巨大化の過程にある。メイシーズは全米各地の百貨店を次々と買収し、「メイシーズ」の看板に付け替えていった。1990年代半ばから2000年代半ばにかけて、フィラデルフィアのStrawbridge’s(ストローブリッジズ)、シカゴのMarshall Field’s(マーシャル・フィールズ)、マイアミのBurdine’s(バーディンズ)、オハイオのLazarus(ラザラス)といった地域の老舗百貨店が姿を消した。
それと同時に、息子の初めてのスーツ、娘のプロム用ドレス、父の日のネクタイ、母の日の帽子といった特別な買い物から、日々のささやかな生活必需品まで、家族の思い出とともに育まれてきた地元客の愛着も失われていった。
経済の先行き不透明感や関税をめぐる混乱を考えれば、メイシーズの未来はいまだ濃い霧の中だ。しかし同社はようやく、「顧客不在の経営に未来はない」という教訓を学んだようだ。直近の決算説明会ではCEOのトニー・スプリングが繰り返し「顧客中心の姿勢」を強調し、顧客からの感謝の手紙まで読み上げてみせた。


