テクノロジー

2025.09.21 13:00

「成長」の代価は人間関係の「摩擦」 テクノロジーが消しゆく不快さ・葛藤・緊張

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私は、スタートアップ企業で経営幹部を務め、講演活動も行っている。講演者としては、言葉の力と、意見の相違がもたらす価値を信じている。そんな私に数日前、同僚から複雑な案件についてメッセージが届いた――電話なら5分で片づく内容だった。だが私は、慎重に留保を織り込み、感情面にも配慮した文面を練るのに10分かけて返信した。効率化を図っていたのではない。摩擦を避けていたのだ。気まずい沈黙も、リアルタイムの緊張も、誤解されるおそれもないように。

ささやかな判断に見えるが、実はもっと大きな潮流の一部だ。私たちは今、購入やスクロールの仕方だけでなく、話し方、働き方、人との関わり方からも、手間や苦労を取り除くよう設計されたシステムの中で生きている。そしてそれには、私たちがようやく認識し始めたばかりの代償が伴っている。

私たちが道具を作っただけではない、道具も私たちを形作っている

現代テクノロジーの設計原則――速度、簡便さ、最適化――は、現実世界のあらゆる物事に対する私たちの思考の型になってしまった。アマゾンのワンクリック購入は買い物のあり方を変えただけではない。私たちの忍耐力をも書き換え、少しの遅れも耐えがたいと感じさせるようにした。マッチングアプリは、人はスワイプで選別でき、代替可能だと教え、真の関係性に必要な忍耐を蝕んだ。

これらは私たちの行動を変えた新しい道具にとどまらない。自己認識そのものを作り替えたのだ。無限の選択肢を前提に設計された世界では、今やコミットメントはリスクに、不快感は失敗に感じられる。摩擦は、どんな犠牲を払ってでも避けるべき脅威になってしまった。

快適さという罠

摩擦のない状態は心地よい――そこに問題がある。インターフェースが滑らかであればあるほど、私たちは、ざらつきや生々しさ、抵抗を伴うものにアレルギー反応を示すようになる。これは至るところに表れている。人間関係では、ちょっとした気まずさが離脱の理由になりうる。YouGov(ユーガブ)の調査では、米国人の27%が少なくとも1人の家族と疎遠であるとされ、困難な関係を乗り切る力が弱まっている傾向を示唆している。

職場では、率直な批評が「心理的安全性」を脅かすものとして扱われがちである。Gallup(ギャラップ)のデータでは、従業員のエンゲージメントは32%にとどまり、多くが正直なコミュニケーションと意味のあるフィードバックの欠如を挙げているのも不思議ではない。公共の場では、対立する見解は議論されず、フラグ付けされるかミュートされる。私たちは分断が深まっているだけではない。分断に耐える力自体を失いつつあるのだ。

この皮肉は明白だ。アルゴリズムがデジタル上の摩擦を取り除き、ますます高度にパーソナライズされた体験を生み出すほどに、私たちは人間同士の関わりが本来伴う自然な摩擦に対して寛容でなくなる。体験を滑らかにするはずのテクノロジーこそが、対人関係に避けがたい誤解や緊張に対する不快感を強め、私たちを孤立へと向かわせているのだ。

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翻訳=酒匂寛

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