CEOs

2025.10.22 08:45

離れかけた「部下の心を引き戻す」 信頼関係の再構築に向けリーダーがもつべき勇気とは

Shutterstock.com

Shutterstock.com

今、ビジネスリーダーにはかつてないほど「自分の言葉」で語ることが求められています。複雑化し、誰にも正解が分らないビジネス環境において、リーダーは自らの内なる声を聞き、ビジョンを描き、それを自らの言葉で語ることによって組織を前進させていく必要があります。しかし、常に組織の目標を優先して動くことを求められてきたリーダーの中には、「自分の言葉」を上手く見出せていない方も少なくありません。

そこで、これまで200名を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを実施してきた私、コーチ・エイ代表取締役会長の鈴木義幸(すずき・よしゆき)が、経営者の方と実際に行ってきた数々のセッションの様子を伝え、読者であるビジネスリーダーの皆さんがコーチングを追体験できるコラムの連載をスタート。内省し、自らの理念や哲学を見直して、自分の言葉を見つけるきっかけとしていただければ幸いです。

信じていた片腕が突然、敵になった理由

経営において最も難しい課題のひとつは、人との関係性です。特にビジネスリーダーと、共に戦ってきた右腕のような存在との信頼関係が揺らぐとき、その影響は組織全体に及びます。連載第1回目となる今回のケースも、クライアントである大手メーカーCEOのAさん(50代)が、同社CFOとの関係が揺いでいると打ち明ける場面から始まります。

鈴木:今日はどんなテーマで話しましょうか?

Aさん:長年一緒にやってきたCFOと私の関係が、最近あまり良くないんです。

聞けば半年前、CEOのAさんとCFOが会社の方針をめぐり激しく意見をぶつけ合って以来、CFOは何かとAさんに反発的な態度を取るようになったと言います。2人は長年、日頃から意見を交わし合い、経営の重要な局面を共に担ってきたパートナー。互いの専門領域に敬意を払いながら、会社の未来を一緒に考えてきました。

鈴木:Aさんに会社を辞めてほしいわけではないですよね?

Aさん:もちろんです。彼は必要な人材ですし、共に当社の変革を担ってきました。これからも一緒にやっていきたいです。

Aさんの気持ちは明確でした。にもかかわらず、2人の関係は改善されないままだというのです。今回のAさんとCFOとの衝突は、「成長のために投資したいCEO」と「利益を守るためにコストを抑えたいCFO」という典型的な構図でした。 立場の違いから生まれる意見の対立は、どの企業でも起こり得ます。問題は、それをどう乗り越えるかです。 

このような時、日本の企業でありがちなのは、考えの異なるトップ同士が「意見を言わない」という選択肢を取ることです。体裁を重んじるため、表立って喧嘩はしないものの、派閥を作って冷戦を繰り広げる。こうなると、組織は一気に推進力を失います。   

信頼関係は、「トラストバンク(信頼銀行)」への預金のようなもの。誠実な言葉掛けや困難を共に乗り越える経験 、さりげない気づかい、こうした積み重ねが預金残高を増やします。 

AさんとCFOには、共に苦難を乗り越え、会社を成長させてきた大きな信頼の預金がありました。しかし衝突や誤解が続けば、預金の引き出しが重なり、残高はすぐに減ってしまいます。2人が信頼関係を再構築するためには、まずは上のポションにいるCEOのAさんがCFOに「一緒に続けたい」という想いを率直に伝え、預金の引き出しを止める第一歩が必要です。   

次ページ > 実は多くの経営者が陥る「人間関係のNGパターン」

文=鈴木義幸

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事