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2025.09.29 14:15

ヒットを支える若き神絵師 後進育成で築くアニメの未来(けろりら):30 UNDER 30

アニメーター けろりら

『ぼっち・ざ・ろっく!』で見出した強み

けろりらの名を世に知らしめた『ぼっち・ざ・ろっく!』は、初めて自分から「アニメーションを手掛けてみたい」と声を上げた作品だった。総作画監督として、「自分がチームを引っ張っていくんだ」という意識が芽生えたのもこの作品から。二十代半ばで重責をこなしたけろりらは、自身の強みをこう見る。

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「人より絵が上手かった訳でも、何か特別な努力をした訳でもないのです。ですが20代前半は起きてから寝るまで、ひたすら絵を描いていました。それだけ描けば、さすがに上達しますし、周りも『めっちゃ頑張ってるね』と評価してくれる。真面目にコツコツ、そういうことなのかなと思います。あと、連絡がきたら、ちゃんと返していましたかね。当たり前のことなんですけどね(笑)」

10年後、20年後のよりよい環境のために

生活を犠牲にしてでも描き続けた。自分の力がどこまで通用するのか見てみたいという思いや、自分の絵をもっと見てもらいたいという承認欲求がモチベーションだった。年々個人としての仕事のパフォーマンスや自身の絵への興味が失われていく一方で、今は後進がモノ作りをするための環境作りやチーム作りに意識が向いている。今年5月にはアニメーション監督の斎藤圭一郎と共にアニメーター育成プロジェクトを立ち上げた。

「もともとアニメ業界は、『見て覚えろ』的なところがあって教育体制が整っていない。なので、自分が現役のうちに、よりよい作品を生み出す環境作りを進めたいと思っています。絵を描く人の悩みって、絵を描く人じゃないと分からない部分もあるので、そこをカバーできたらいいのかなって。いま現場で使える技術や知識を教えるためにもプレーヤーで居続ける必要はあると思っています」

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けろりらが後進の教育に関心を向ける背景には、アニメ業界に貼り付いた「何をやっているか分からない」「徹夜するんでしょ?」「儲からないんでしょ?」といったイメージを払拭したいという思いもある。

アニメの制作はチームで行うゆえ、誰がどんな作業工程を経て作品を作り上げたかが見えにくく、レジェンド級の大御所を除けば、アニメーター個人の名前も知られていない。それもあって、革新的な表現を生み出すなど、その後のアニメ業界に影響を与えた人々が、適正な評価や報酬を得にくいと言うのだ。

「もちろん、今のままでいいという職人気質の人も多いですが、そうすると後進が豊かにならないじゃないですか。閉鎖的な環境だと、同じ人たちの同じ感覚のものしか生まれづらくなりますし。10年後か20年後に、みんながよりよい環境で仕事が出来て、そこから生まれる作品が評価されて、アニメ市場が今よりもっと大きくなったら、創り手の情報も表に出るようになるでしょうし、ハードルも上がっていくと思うんです。最終的に、『アニメ業界に入るために頑張ろう』と憧れられる世界になったら、それが一番素敵なのかなと」

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文=山脇麻生 写真=帆足宗洋(AVGVST) スタイリング=鹿野巧真 ヘアメイク=MIKAMI YASUHIRO

連載

「30 UNDER 30」2025

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