イノベーションが進歩のエンジンだとすると、「問い」は点火プラグだ。
イノベーションを巡っては、新製品の立ち上げ、画期的なアルゴリズム、何十億ドル(数千億円)も生み出すアイデアといった、大胆な「答え」の方がもてはやされる傾向がある。しかし実際のところ、画期的なイノベーションの始まりは、天才的なひらめきではなく、一見シンプルな「問い」による、問題の根本からの捉え直しであることが多い。
たとえ世界中のリソースをつぎ込んでも、人間の好奇心なしにイノベーションは起きない。そして重要なのは、その好奇心を行動へと変えるような、「適切な問い」を立てることだ。
うまく問いを立てることがブレイクスルーにつながる
アインシュタインが残した有名な言葉がある。「問題を解くのに1時間与えられたとしたら、55分はその問題について考えるのに使い、残りの5分で、解決策について考えるだろう」。これは、先延ばしを勧めているわけではない。“問いの質が、解決策が持つ力を決める”と同氏は認識していたのだ。
これは、哲学的な姿勢ではなく、むしろ実践的な方法論だ。企業コンサルタントで作家のマリリー・アダムズは、自らが考案した「質問思考(Question Thinking)」について説明した画期的な著作(『QT 質問思考の技術』邦訳:ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中で、そのための強力なフレームワークを提示している。
「批判する人(Judger)」の道と、「学ぶ人(Learner)」の道
アダムズによると、人の思考がたどれる道は大きく2つに分けられる。「批判する人(Judger)」の道と、「学ぶ人(Learner)」の道だ。
「批判する人」の問いは、閉じていて自己弁護的であり、非難や欠如の指摘に焦点がある(「誰が悪いのか?」「なぜうまくいかないのか?」)。こうした問いは、創造性を潰してしまう。これに対して、「学ぶ人」の問いは開かれており、好奇心と可能性が根底にある(「ここから何を学べるのか?」「どんな可能性があるのか?」「生み出したいものは何か?」)。そして、良い問いはイノベーションのロケット燃料になる。
こうした視点から、Airbnbの誕生を考えてみよう。同社共同創業者のブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアは、「なぜこんなに家賃が高いんだ?」という「批判する人」の道には進まず、「学ぶ人」の道を選んだ。出発点となったのは、個人的な必要から生まれた一見シンプルな問いだ。「サンフランシスコの高い家賃を払うために副収入が少し欲しいけど、どうすればいいだろう?」。
この問いに続いて、「学ぶ人」の問いが次々と誕生した。「この街にやってくる人たちの中に、従来のホテルよりも手ごろでユニークな滞在先を望む人がいるのではないだろうか?」といった問いだ。最終的に、「こうした旅行者と、余分なスペースがある一般の人とをつなぐことができるのではないか?」という問いにたどりついた。これは、「学ぶ人」のマインドセットの典型例だ。こうした姿勢が、ビジネスでの世界的成功につながった。
スペースXのケースはこうだ。イーロン・マスクの問いは、「ロケットをいかに改良するか?」ではなく、「なぜロケットは、飛行機のように再利用できないのか?」というものだった。この問いは、航空宇宙業界において何十年も続いてきた前提を根底から覆した。そして、再利用が可能なロケット「ファルコン9」の開発と、打ち上げコストの劇的な低下につながった。


