米国債は「世界で最も安全な資産」とされ、中国は長年その最大の保有国の1つとみなされてきた。ドルの国際的支配力を維持することは米国の国家戦略の根幹にあり、外国資本への依存は政治的な弱みともされてきた。2014年に誕生したステーブルコイン「Tether(テザー、USDT)」は、当初は暗号資産の周辺的な存在に過ぎなかったが、裏付け資産として巨額の米国債を保有するようになり、市場における投資主体の一角を占めている。こうした状況から筆者は、外国依存を和らげる構造変化を促す可能性に注目している。
米国債需要を押し上げる新潮流、ステーブルコインの登場と拡大
2014年にTetherが立ち上げたステーブルコインは、世界の金融を変えうる存在を目指し進化してきた。ステーブルコインは米国債需要の一因となっており、規制当局はドルの国際的な優位性を守る手段としてこれらのトークンを認めざるを得なくなった。
2025年7月に成立した「GENIUS法」は、ステーブルコインの発行体に米ドルや米国債による裏付けを義務づけた。これにより、このトークンは米国債需要を一段と強力に押し上げる存在となった。
ステーブルコインは、もはや暗号資産業界のニッチ商品ではなく、米国の金融政策の柱の1つになりつつある。ドルの世界の基軸通貨としての地位を支えると同時に、明確な連邦ルールのもとでデジタル資産の革新を促している。
GENIUS法が曖昧な規制を一掃、明確なルールを確立
GENIUS法が成立する前、テザーのUSDTやサークルのUSDCといったステーブルコインは、曖昧な継ぎはぎ細工の規制の下で運営されていた。発行体は、しばしば州レベルの送金業法や一貫性のない連邦のガイドラインに依存し、市場全体がグレーゾーンに置かれていた。
GENIUS法はこの曖昧さを一掃した。
裏付けの義務化で投機から金融商品へ
この法律は、主に米ドルや短期国債などの信用力の高い資産での1対1の裏付けを義務化し、準備資産の毎月の開示を求めた。また「認可済み決済ステーブルコイン発行者(Permitted Payment Stablecoin Issuers)」という免許制度を設け、海外の事業者が認定を得るための手続きも定めた。これらの措置は監督制度を一本化し、十分な裏付けのない方式を排除し、ステーブルコインを規制された金融商品として確立した。
テザーの米国債保有は約18.8兆円
2025年第2四半期末時点で、テザーは1270億ドル(約18.8兆円。1ドル=148円換算)を超える米国債へのエクスポージャーを報告した。内訳は、直接保有が1055億ドル(約15.6兆円)、間接的な保有が213億ドル(約3.2兆円)で、前四半期から80億ドル(約1.2兆円)増加していた。同社が公表した「財務数値と準備資産報告書」は、こうした準備資産の正確性を裏づけるとともに、USDTを支える資産の詳細を明らかにしている。多額のビットコインや金の保有とあわせ、テザーの米国債ポジションは、ステーブルコイン発行者が世界有数の米国政府債の保有者へと成長したことを示している。
この四半期の数字は需要の拡大ぶりも浮き彫りにした。米国政府がGENIUS法を推進し、ドルのデジタル市場における役割を強化するなか、テザーの準備資産は民間のイノベーションが公的な金融政策の目的と歩調を合わせている姿を映し出している。同社は、拡大を続ける世界の利用者に対し、ドルの流動性への安全なオンチェーンアクセスを提供している。



