暗号資産

2025.09.19 10:00

ステーブルコインで米国債需要、外国依存から市場需要へ転換か?

Photo by Win McNamee/Getty Images

短期国債の利回りに波及、国際決済銀行(BIS)は急な償還リスクを警告

米国短期国債に対するステーブルコイン需要は、すでに利回りに影響を及ぼしている。

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国際決済銀行(BIS)は、集中した市場で償還が急増すれば、発行体が短期国債を一気に売却せざるを得ず、利回りの上昇やボラティリティの拡大を招く恐れがあると警告する。こうした変化は、ステーブルコインが米国債市場における新たな強力な要素となる中で、金利と流動性を管理しようとする米連邦準備制度理事会(FRB)の取り組みを難しくしている。

外国依存から市場需要へ転換、米国債を巡る構造変化

一方、テザーやサークルなどの米ドル建てステーブルコインの発行体に準備資産の保有を義務づける新ルールは、彼らを新たな機関投資家に位置づけられると筆者は評価している。

米国全体の国債発行残高は37兆ドル(約5476兆円)超だ。このうち、中国が現在保有する米国債は約7560億ドル(約111.9兆円)となっている。筆者は、ステーブルコイン需要はいずれその規模を上回る可能性を考慮しており、米国の債務調達のあり方を変えるとの見方を示す。またGENIUS法は、短期国債を準備資産の対象と認め、レポ取引(一定条件付きの債券売買)の担保として利用できるようにすることで、ステーブルコインを規制上の問題から財政戦略の柱へと変貌させると指摘しておきたい。米国は外国の債権者への依存を、市場ベースの需要へと置き換えつつあるのではないか。

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米国債保有上位6か国(2025年時点)

・日本:約1.13兆ドル(約167.2兆円)

・イギリス:約7790億ドル(約115.3兆円)

・中国:約7560億ドル(約111.9兆円)

・ケイマン諸島:約4400億ドル(約65.1兆円)

・カナダ:約4300億ドル(約63.6兆円)

・ベルギー:約4100億ドル(約60.7兆円)

ドルの国際的役割を拡張、FRBのウォーラー理事が効用を指摘

規制当局は、ステーブルコイン発行体を金融システムに組み込まれる存在と見なすようになっている。彼らは銀行以外の金融機関と同様に、預金のような資金流入を安全資産に振り向けているため、償還によって急な売却を強いられればリスクにつながる。

そして、ステーブルコインがもたらす影響は米国内にとどまらない。

FRBのウォーラー理事は、ステーブルコインが国際送金のコストを下げ、高インフレの経済圏で銀行サービスへのアクセスを提供することで、ドルの国際的な役割を拡大し得ると指摘した。彼はステーブルコインを「デジタルドル」と位置づけ、クレジットカードが公的インフラの支えを受けつつ民間主導で進化してきたのと同様に、長期にわたる金融のイノベーションに組み込まれるものだと示唆した。

この見方は、ステーブルコインを単なる規制上の課題としてではなく、米国の金融市場と国際決済の双方における構造の変化ととらえるものだ。

民間のイノベーションと公的な監督の組み合わせによって、ステーブルコインは米国債市場から中国などの外国の債権者が退いていく局面でも、ドルの優位性を強める可能性がある。枠組みを提供するのはGENIUS法だが、変革の規模とスピードを決めるのは、テザーやサークルといった民間の発行体だ。

新たな財政インフラとして、米国の金融覇権を延命させるか

暗号資産のニッチな実験として始まったものが、今や米国の金融と世界市場の中心的な存在へと成長した。ステーブルコインはデジタル資産を政府債務の仕組みにつなぎ、利回りに影響を与え、金融政策を形づくり、ドルの影響力を海外へ広げている。

GENIUS法が法的な枠組みを提供する一方で、主導権を握っているのはテザーやサークルといった民間の発行体だ。筆者は、彼らのバランスシートは今や国家規模に近づき、米国債需要を取り込む存在と評価したい。ステーブルコインの存在は、テクノロジーと市場、規制が交わり、新たな財政インフラが立ち上がる可能性を示している。こうした動きは、米国が世界の金融システムで果たす地位を延命させるかもしれない。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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