KPMGがグローバルで開催するピッチコンテスト「KPMG Private Enterprise Global Tech Innovator Competition」(以下、GTI)。昨年の世界大会で日本代表が優勝し、一層の盛り上がりを見せる2025年の日本大会の様子をレポートする。
監査・税務・アドバイザリーサービスを提供するプロフェッショナルファーム「KPMGジャパン」主催のGTI。最優秀賞を受賞した企業は、2025年11月にポルトガルのリスボンで開催される世界大会「KPMG Private Enterprise Global Tech Innovator Competition」日本代表の出場権を獲得できる。
当日は、KPMGジャパン共同チェアマンを務めるあずさ監査法人の山田裕行理事長のあいさつで開会した。山田はGTIに130社を超える応募があったことに言及し、「本日登壇する企業が、世界で戦う日本発のテクノロジー企業として飛躍してほしい」と、願いを述べた。
また、24年の世界大会では日本代表のサーマリティカが優勝し、22年にも日本代表が準優勝したことに触れ、日本の技術力と構想力が世界で注目されていると強調した。参加企業は4ブロックに分けられ、各社3分の限られた時間のなかで、自社の技術力や将来性をプレゼンした。
大会の特徴は、医療・ヘルスケア分野からの参画が多かったこと。がんや認知症などの治療に新たな道を切り開く技術を複数社が提示した。さらに、バイオテクノロジーの技術に強みをもつ企業や、環境問題の解決に直結するエネルギー事業を展開する企業も見受けられた。技術面ではAIの浸透が顕著であり、精密な診断支援から膨大なデータ解析まで、幅広い用途で導入された。東京大学や東北大学といった著名な研究機関を有する大学発のスタートアップの存在も際立っていた。
各ピッチ終了後には、審査員からの質疑応答の時間も設けられた。「グローバルでの競合優位性は?」「技術の実証状況や事業化へのボトルネックは?」といったグローバル展開を見据えた成長性や市場への実装をテーマとした質問が飛び交った。
最優秀賞はライノフラックス。バイオマス資源活用を高効率化
6つ(破壊とイノベーション、市場潜在力、顧客による採用、市場牽引力とマーケティング、長期的な潜在力、ピッチの質)の同等加重の審査基準で採点され、審査員が各賞を選出した。選考は難航し、特に最優秀賞について議論が白熱した。
最優秀賞には、エネルギー企業としてバイオマス資源の活用とクリーンエネルギーへの転換を目指す「ライノフラックス」が選ばれた。開発する技術は、特殊な水溶液と化学的に反応させることで、バイオマス資源から高効率にクリーンエネルギーを回収するものだ。発電コストは半分以下で、バイオマス由来の高純度CO2のコストをかけない回収も可能にする。さらにプラントの小型化が容易で、バイオマス発生現場に設置できるため、回収や輸送のコストも削減可能だという。
発電コストは半分以下で、バイオマス由来の高純度CO2のコストをかけない回収も可能にする。さらにプラントの小型化が容易で、バイオマス発生現場に設置できるため、回収や輸送のコストも削減可能だという。
同社代表取締役CEOの間澤敦は受賞について、「課題はまだまだあるが、世界のエネルギー問題を解決するというグローバルな目標に向かっていく。世界大会では日本代表2連覇を成し遂げたい」と意気込みを語った。
審査員長で、「イノベーション・インテリジェンス研究所」代表取締役社長の幸田博人は、「世界で評価される可能性を秘めた技術力がある」と選定理由を述べ、日本発スタートアップのリスボンへの挑戦に大きな期待を示した。
今後の活躍が最も期待されるアーリーステージの企業に贈られる「KPMG Dream賞」は、有機溶媒により環境破壊が進む化学の世界を「メカノケミストリー」という新技術で変革する「メカノクロス」が受賞。明瞭で訴求力のあるプレゼンテーションと、グローバル市場を視野に入れた技術力が評価された。今後の成長性が高いと認められた企業に贈られる「あずさ監査法人インキュベーション賞」は、あらゆる水源から「無菌で不純物ゼロの水源」をつくり出す技術をもつ「ENELL(エネル)」に贈られた。
イノベーション創出が最も期待される企業へ贈る「Private Enterprise賞」には、認知症への治療として低出力のパルス超音波治療を提起する「サウンドウェーブイノベーション」が選出された。医療費や介護費の大幅な削減と、画期的な技術開発が高く評価された。外部審査員が選ぶ「審査員特別賞」は、地球上の1兆もの微生物の潜在力を解き放つプラットフォームを開発する「bitBiome(ビットバイオーム)」が受賞。
ピッチのレベルが非常に高かった企業に贈られる「プレゼン優秀賞」は、透析患者の在宅での血液透析を実現する「フィジオロガス・テクノロジーズ」が受賞。総合的な実力と技術の意義が高く評価された。
年々高まるピッチレベル。日本発のテックを世界へ架橋する
審査中、「ディープテックスタートアップへの期待」のテーマでパネルディスカッションが開催された。登壇者はKPMG FAS、KPMGコンサルティング、KPMG税理士法人、あずさ監査法人といったKPMGジャパンのファームの面々。ディープテックスタートアップと大企業との連携による事業化の促進、グローバル市場での競争優位性、そして日本特有の税制や資金調達など、スタートアップ支援に関する多角的な視点が論じられた。
外部審査員である審査員長の幸田は本イベントの総評を以下のように語った。
「さまざまな領域のイノベーションに取り組むスタートアップが集まり、非常にレベルの高いピッチイベントだった。年々その領域やレベルが高まっている」
閉会に際し、あずさ監査法人常務執行役員、インキュベーション部長パートナーの阿部博は、総評とともに本イベントの意義を以下のように述べた。
「昨年の日本代表は帰国後も投資家や事業会社からの対応に追われるぐらい、技術力が注目されていた。スタートアップが海外コミュニテイにつながっていくようなエコシステムを、みなさんと一緒になってつくっていきたい」
「KPMG Private Enterprise Global Tech Innovator Competition」とは
KPMG英国単独開催から世界規模へと発展した、グローバルピッチイベント。各国の代表者は、地元メディア報道およびKPMGのコーポレートチャンネルを通して認知度を高めることができ、同時に投資家やパートナーとなりうる企業などのネットワークも構築できる。
最優秀賞
ライノフラックス
あずさ監査法人インキュベーション賞
ENELL
Private Enterprise賞
サウンドウェーブイノベーション
審査員特別賞
bitBiome
プレゼン優秀賞
フィジオロガス・テクノロジーズ
KPMG Dream賞
メカノクロス

9月18日、「Global Startup EXPO 2025」にて「大学を中心とした世界のエコシステムと日本のエコシステム」をテーマにパネルディスカッションが開催され、KPMGジャパン共同チェアマン山田裕行が登壇した。日本の有力大学や全米トップレベルの州立大学、世界最大のライフサイエンスインキュベーター創業者も参加し、熱い議論が交わされた。(写真:KPMG提供)



