PM2.5の濃度が、WHO(世界保健機関)が定めたガイドラインの基準値に収まっている国や地域は、世界でわずか12しかない。その一方で、この基準値の5倍を上回る値を記録する国や地域は、数多く存在する。
大気汚染は環境要因の中でも、人間の健康に対する最大の脅威の一つだとWHOは警告している。しかもその被害は低所得国だけでなく、所得が中程度、あるいは高い国にも広く及んでいる。2019年の時点では、世界の人口の99%が、WHOが推奨する大気質ガイドラインの基準値に達してない地域に暮らしていたという。
米国の非営利団体「Health Effects Institute」などが発表している2024年版「State of Global Air report(世界の大気状況リポート)」も、大気汚染が原因で死亡した人は2021年に世界で810万人に上り、5歳未満の子どもを含め、第2位の死亡リスク要因となっていると指摘した。
住んでいる場所の大気汚染がひどく、住むところを変えたいと思っても、今すぐできることはあまり多くはないかもしれない。それでも、空気のきれいな旅行先を選ぶことはできる。その時に力になるのが、大気汚染に関する知識だ。
旅行先としてどんなに魅力的に感じられても、地球上で最も空気が汚れている場所を避けたいなら、大気質の状況を監視しているスイスのテクノロジー企業、IQAir(IQエア)がまとめた「World Air Quality report(世界大気質リポート)」の最新版が役に立つだろう。このリポートに掲載された、世界の首都の大気汚染度ワーストランキングを見れば、旅行で行くべき場所と行ってはいけない場所がわかるはずだ。
このリポートには、世界138の国や地域、領土の8954都市から収集した、大気の質を示すPM2.5濃度のデータが掲載されている。このデータは、規制対象となる汚染物質を測定する4万以上の観測所やセンサーから提供されたものだ。これらの観測ポイントの運営元は、政府機関から学校、アマチュア科学者まで、多岐にわたる。
PM2.5による大気汚染とは何か?
「PM2.5」とは、大気中を漂う微小粒子状物質で、髪の毛の太さの約30分の1程度と非常に小さいため、肺を通り抜け、血流にまで入り込む。そのため、循環器系と呼吸器系の両方で幅広く健康への悪影響が懸念されるほか、脳卒中や肺がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの疾病を引き起こすとされている。
PM2.5のデータは、1立方メートルあたりマイクログラム(µg/m³)という単位で測定される。そして、WHOが定めたPM2.5濃度に関する大気質のガイドラインである5µg/m³という基準に照らし合わせて分析される。
2024年版リポートに掲載されている汚染度の計測値は、IQエアのリアルタイムオンライン計測プラットフォームから得られたものだ。このプラットフォームでは、世界各地にある大気質の観測所から得られたデータを体系的に検証、補正、調整している。



