1万円超のスマホケースでビジネスを成立させている稀有なブランド、CASETiFY。
Z世代を中心に熱い支持を集める要因は、消耗品ではなく「自己表現のアイテム」として再定義した点にある。その思想はいま、テックアクセサリーにとどまらず、スーツケースなど生活領域へと拡張し始めている。
テックアクセサリーブランドからライフスタイルブランドへ──その転換の背景にある体験価値について、CASETiFY Japanゼネラルマネージャーのゲーリー・福元に聞いた。
SNSの普及とともに、スマートフォンは通信手段から、自己を表現し発信するためのライフスタイルデバイスへと変貌した。
CASETiFYはその変化をいち早く捉え、スマホケースを「保護部品」から「自己表現のキャンバス」へと再定義した。その姿勢に共鳴したインフルエンサーたちが愛用し、SNSで発信を重ねたことで、その存在はアクセサリーの域を超え、カルチャーの象徴へと広がっていった。
福元は、自社ブランドの存在意義を次のように位置づける。
「スマートフォンは、もはやライフスタイルや考え方を示すツールです。だからこそ、ケースにも自分らしさを反映したいというニーズが生まれる。私たちはそれを表現できるよう、デザインと機能を両立させてきました。結果として、スマホケースは個人のアイデンティティを映すアイテムへと進化したのです」
プレミアム価格のCASETiFYが選ばれる理由
CASETiFYのスマホケースが高価格帯でありながら支持を集める背景には、大きく2つの軸がある。ひとつは、カスタマイズ性とIPコラボレーションによる「希少性」。もうひとつは、徹底した品質管理と卓越したプロテクト性能によって築かれた、揺るぎない「信頼性」だ。
カスタマイズ性とは、ユーザーが名前や写真、テキストを自在に取り入れ、自分だけのデザインを完成させられる点を指す。こうしたパーソナライズ性はZ世代を中心に高い支持を集めており、SNSを通じて自然に拡散されている。
さらに、自己表現を支えるもう一つの柱がIPコラボレーションだ。蜷川実花や村上隆とのコラボレーションなど、作品を日常的に持ち歩けることは“アートの民主化”とも言える試みであり、また『ドラゴンボールZ』『ONE PIECE』などの日本発アニメとの協業は、幅広い世代の共感を呼んでいる。
「日本はIPの宝庫です。世界で最も多くの人気キャラクターやコンテンツが存在し、コラボレーションの可能性は極めて大きい。アニメ、アーティスト、ファッションブランドに至るまで、日本独自のカルチャー資産が揃っています。これらのIPと組み合わせることで新たな価値を創出し、グローバル市場へ発信していくことができる。日本市場はCASETiFYにとって、世界展開を牽引する中核的なポジションを担っています」
他方で、こうした自己表現の舞台を支えているのが品質とプロテクト性能だ。印刷や加工の精度は細部まで丁寧に調整、管理され、徹底した品質チェックを経て市場に出荷される。アーティストにとって、スマホケースは作品を投影するプラットフォームであり、わずかなズレや色味の劣化でも作品価値を損なってしまう。CASETiFYが世界的アーティストに信頼される理由は、この妥協のない品質基準にある。
加えて、厳格な基準を設けた落下試験をクリアし、MIL規格にも準拠するなどプロテクト性能も徹底して磨き上げている。最新のiPhone17対応ケースでは、長期使用で劣化しやすい側面固定部を接合構造で補強する「Duo-Lock by CASETiFY™接合技術」を導入。弱点を克服し、耐久性を強化させた。また、 50色の新色と新たなデザインの組み合わせで300種類以上のバリエーションを展開する「グレーズケース」では、インナープリント技術を採用することで、長期間使ってもプリントが剥がれず、傷に強い仕様を実現した。
「CASETiFYは、デザイン性だけではなく『守る』ことを大前提としています。高所からの落下にも耐えうる強度を備え、徹底した品質管理を通じてクオリティを最優先する姿勢を貫いてきました。加えて、唯一無二のデザインを実現できるカスタマイズ性や、海外や日本発のIPとの協業によるストーリーテリングが、自己表現を求めるユーザーの支持につながっています。消費者にとっては『自分のアイデンティティを映すアイテム』として手に取れる存在であり、それこそがプレミアムな価格を受け入れていただける理由だと考えています」
テックアクセサリーからライフスタイルブランドへ
福元は自社の方向性について、次のように語る。
「私たちのDNAは『大切なものを守る』こと。この使命はテックアクセサリーだけにとどまりません。スマホケースで培った耐衝撃性やカスタマイズ性は、生活のあらゆるシーンに応用することができる。守るという機能と自己表現を同時に実現することで、ユーザーに新しい体験を提供していきたい」
その象徴が、北米と韓国では2024年11月に先行発売され、日本では2025年5月に本格参入したスーツケースだ。軽量かつ耐衝撃性に優れ、ボディには好みの文字も入れたり、バックグラウンドデザインを選ぶことも可能だ。スマホケースで培った技術とノウハウが、移動時に荷物を守り抜く堅牢性と、ユーザーの個性を表すデザイン性を両立させている。
ライフスタイルブランドとして日常に寄り添う以上、持続可能性も欠かせない要素となる。CASETiFYが掲げる「守る」というDNAは、製品のプロテクション性能にとどまらず、環境や未来を守る姿勢にも一貫している。
リサイクルプログラム「Re/CASETiFY」では、21年から累計で10万5,000kg以上のプラスチックが、リサイクルやエネルギー回収を通じて再資源化された。24年だけで62万4,000個以上のケースを回収し、累計で210万個を超えるスマホケースをリサイクルしてきた。さらに25年4月にはBMWとの協業により、自動車部品を再利用したスマホケースなどを展開する「BMW | CASETiFY」コレクションを発表。プレミアムカーとテックアクセサリーの融合は、環境配慮とラグジュアリーを同時に実現する象徴的な取り組みとなった。
「リサイクルはCSR活動ではなく、ブランドの根幹にある考え方です。若い世代にとって環境への配慮はブランドを選ぶ際の重要な基準になっています。使い終わったケースを回収して次の製品につなげる循環は、ユーザーも参加できるサステナブルな体験になる。BMWとのプロジェクトでは、環境負荷を減らしながらラグジュアリーを感じさせるデザイン性を両立できました。サステナビリティを制約ではなくイノベーションの源泉に変える──これこそがCASETiFYらしい挑戦だと考えています」
リアル店舗における体験がブランド資産に
EC発のCASETiFYは現在、世界で64、国内10の直営店を展開する。25年9月には、都内に位置するJR「高輪ゲートウェイ駅」直結の商業施設内に、先述のスーツケースに触れ、その機能を体験できる店舗をオープンさせた。
リアル店舗は、同社にとって単なる販売チャネルではない。ブランドの世界観を共有し、顧客ロイヤルティを育む体験拠点として位置づけられている。その最たる事例が、フランス・パリのルーブル美術館直結の店舗だ。
福元は「店舗は実際に商品を手に取っていただき、ブランドそのものやストーリーを体験する空間です。
そのため、出店場所はブランド価値を損なわぬよう、象徴性のあるロケーションを厳選しています。ルーブル美術館での出店もそのうちのひとつで、この考えを体現したものになります。ブランドアイデンティティを反映した店舗展開は、引き続きスピード感をもって強化していきます」と語る。
同社の戦略は、価格競争が激しいスマホケース市場においても、ブランド戦略とマーケティングで新たな価値を創出できることを示してきた。
「いまやスマートフォンは名刺以上に人目に触れるアイテムです。劣化したケースはスーツのシワ以上に印象を損なう。一方で洗練されたケースは、持つ人の信頼性を示す無言のメッセージになる。自己表現という価値はZ世代だけでなく、ビジネスパーソンにとっても欠かせないものです」
CASETiFYの歩みは、消耗品とされてきたスマホアクセサリーを、文化的価値をもつアイテムへと転換し、ライフスタイルブランドへと拡張する可能性を示した。世代や領域を超えて広がる「自己表現」の需要を背景に、同社はグローバル市場での存在感をさらに高めていくだろう。
ゲーリー・フクモト◎アメリカ出身。GAP日本進出メンバーとして来日後、LVMH傘下ブランドをはじめ、ナイキやコーチ、アシックスなど世界的ブランドの日本市場における成長戦略を牽引。現在はCASETiFY Japanゼネラルマネージャーとしてブランド価値向上を担う。



