AIから金融まで――拡大するアフィニティの投資戦略
幅広い分野に投資しているクシュナーだが、現在はアフィニティに集中している。これまでは主に不動産を投資先としていた彼にとって、プライベート・エクイティは新しい領域だ。そのため、慎重に動いたと見られるクシュナーの投資額は、2023年には5億ドル(約735億円)未満にとどまっていた。
しかし今は大きく動き始めている。アフィニティは今年4月までに累計20億ドル(約2940億円)以上を投資済みだが、年内だけでも少なくとも10億ドル(約1470億円)を投じる見通しだ。3月に提出された最新の財務開示によれば、同社が運用する資産は48億ドル(約7056億円)に達する。また、投資先は世界8カ国以上に広がり、フィットネステックから自動車リースまで多岐にわたる約25件を数える。そのうち22件では株式を保有している。
「立ち上げ当初は、この分野でどこに立ち位置を見いだすかを模索していた。だが今では、頼れるパートナーとしての地位を確立できたと思う」とクシュナーはフォーブスに語る。
英デジタル銀行OakNorth、AI新興UniversalAGIにも出資
最近の投資案件のひとつは、英デジタル銀行OakNorth(オークノース)への出資だ。アフィニティは8月に同社株の8%を非公表額で取得した。また、急成長する人工知能(AI)分野にも参入している。アフィニティは先ごろ、AIインフラの新興企業UniversalAGI(ユニバーサルAGI)に出資した。同社は元グーグルCEOのエリック・シュミット、著名VCエラッド・ギルから1000万ドル(約15億円)を調達している。
そして9月10日、クシュナーとギルはサンフランシスコに拠点を置く新興AI企業Brain Co.(ブレイン)を立ち上げた。同社はすでに、アフィニティやギルに加え、コインベースのブライアン・アームストロング、リンクトインのリード・ホフマン、ストライプのパトリック・コリソンらから3000万ドル(約44億円)を調達している。
アフィニティの投資家の多くは、クシュナーがホワイトハウス勤務時代に築いた人脈から集まっている。クシュナーは現在、2期目のトランプ政権の公式な政治活動からは退いているものの、一部では離れた場所から助言を行い、9月初めの全米オープンテニスなどでは、大統領と共に公の場に姿を見せた。なお、アフィニティの出資者は年間約6000万ドル(約88億円)の手数料を支払っている。
建材流通会社が含み益を牽引、デジタル銀行レボリュートの評価は11兆円に上振れ
同社のポートフォリオの成果が真に明らかになるには、長期的な視点が必要となる。一般的なプライベート・エクイティ・ファンドの運用期間はおよそ10年だが、アフィニティの第1号ファンドは13年に設定されている。ただし、その途上でも初期的な成功例はいくつか現れている。代表的なのが建材流通会社QXOだ。8社のビリオンダラー企業を立ち上げてきたブラッド・ジェイコブスが設立したこの会社に対し、アフィニティは2024年7月から今年4月にかけて3億5000万ドル(約515億円)を投じ、初期投資から98%のリターンを得ている。
ロンドン拠点のデジタル銀行Revolut(レボリュート)も有望だ。ニック・ストロンスキーとブラッド・ヤツェンコが共同創業した同社にアフィニティは2024年8月、450億ドル(約6.6兆円)の評価額で出資した。同社はその後、既存株主による株式売却(セカンダリー)が報じられている。その際の評価額は750億ドル(約11兆円)に達する見込みだ。これが実現すれば、アフィニティはわずか1年余りで67%のリターンを得る計算になる。
また、クシュナーが最も初期に支援したドバイ拠点のクラシファイド広告プラットフォーム、Dubizzle Group(ドゥビズル・グループ)は新規株式公開(IPO)を検討していると伝えられている。


