既存金融を飲み込む野望、数十京円規模のポテンシャル
「予測市場が非常に優れた顧客エンゲージメントの手段になることが分かった。他の事業との相乗効果も期待できる」。そう語るのは、2700万人の顧客を抱え、次世代の「金融のワンストップ企業」を目指すロビンフッドの先物部門責任者JB・マッケンジーだ。
6月にKalshiの1億8500万ドル(約272億円)の資金調達を主導した暗号資産に特化したベンチャーキャピタル、パラダイムの創業パートナーのマット・ホワンは、予測市場の低い運営コストが既存の市場を事実上、共食いする道を開く可能性があると見ている。
「予測市場は、他のあらゆる市場を包含する上位概念だ。スポーツベッティングや株式市場などの、ほとんどの市場を予測市場として再分類できる」とホワンは語る。「ある意味で、予測市場は最大級の金融市場と同規模に、あるいはそれ以上に成長する可能性がある。上限はないと本気で思っている」
マンスールにとっても、この市場は「数百兆ドル(数十京円)」の規模に達する潜在力がある。
成功を後押しするトランプ陣営との蜜月、覇権争いはまだ序盤
予測市場ブームにさらに火を注ぐとすれば、その源はトランプ陣営になる可能性が高い。トランプ大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニアは今年1月にKalshiの戦略顧問に就任した。また、Kalshiの規制担当責任者を4年間務めていたエリエゼル・ミショリーは4月に、トランプ政権の政府効率省(DOGE)で米証券取引委員会を担当するチームの幹部に起用された。さらにKalshiの取締役で、トランプ政権1期目に商品先物取引委員会(CFTC)の委員を務めたブライアン・クインテンツも、今年トランプによってCFTCのトップに任命された。
また、マンスールが、2022年にフォーブスの「30アンダー30」に応募した際に、唯一の推薦者として名を挙げたのがKalshiのエンジェル投資家であり、トランプが現在、国防総省の最高技術責任者に指名しているエミール・マイケルだった。さらに続きがある。チャールズ・シュワブの孫娘のサマンサ・シュワブは、リンクトインによれば、2025年1月にトランプ政権の財務省の副首席補佐官に就任するまでの1年間、Kalshiの事業開発チームに在籍していた。
競争環境が激化する中、州規制当局がKalshiを提訴
予測市場の競争でKalshiは先行しているとはいえ、このレースはまだ始まったばかりだ。8月下旬には、ドナルド・トランプ・ジュニアが競合Polymarketに出資し、顧問に就任した。その数日後、PolymarketはCFTCから米国内での事業認可を獲得し、ウォール街への展開力の点でKalshiと肩を並べた。
米国最大のスポーツベッティング企業であるFanduel(ファンデュエル)やDraftKings(ドラフトキングス)も予測市場への参入を狙っている。一方で州の規制当局は、Kalshiのスポーツ関連契約の合法性をめぐる訴訟を続けており、同社にとって最大の市場が脅かされかねない注視すべき状況だ。


