「リスクヘッジ」か「真実の追求」か、投資家は予測市場の意義を語る
一方、ビリオネア投資家たちに、「なぜ予測市場ビジネスに参入するのか」と尋ねれば、返ってくるのは往々にして哲学的な答えが多い。
「私は、キャリアを通じて人々が未来を確率で考えようとしないことが気になっていた。予測市場は、人々に未来を確率的に捉える方法を教えるものだと私は考えている」と語るのは1977年に証券会社インタラクティブ・ブローカーズを設立したピーターフィーだ。時価総額が1000億ドル(約14.7兆円)の同社は、設立当初からより多くの人々を、「株価への賭け」であるオプション取引に参加させることを目指していた。
さらに、ポーカーの腕前を重視するヘッジファンドを率いるジェフ・ヤスは、フォーブスにこう語る。「予測市場を使えば、例えばフロリダの住宅所有者が直面するようなハリケーンのリスクをより柔軟に分け合うことが可能だ。彼らは、毎年保険料を払う代わりに、風速が一定以上になる確率に賭けを行えばいい。そうすれば、最新の気象データをもとに、迫りくる被害のリスクをヘッジできる」
一方、ロビンフッドのテネフは2024年3月、Kalshiとの提携をXで次のように発表した。「予測市場は本質的には、資本主義を真実の追求に応用したものだ。市場のインセンティブと群衆の知恵が膨大な情報をふるいにかけて、与えられた問いに明確な答えを出し、重要な出来事の結果を導き出す」
その1カ月前、コインベースのブライアン・アームストロングはCNBCに「予測市場はいずれニューヨーク・タイムズに代わる存在になり得る」と語った。
マサチューセッツ工科大学(MIT)でエンジニアリングを学び、ゴールドマン・サックスやシタデル証券で株式のオプション取引の経験を積んだマンスールは、核心を突いてこう語る。「ウォール街のトレーダーにとって、予測市場は長らく究極の目標だった。取引可能な商品が無限にあるビジネスだからだ。私たちは世界最大の取引市場を作りたい」
Kalshiの事業モデルは手数料収益で、少額契約から多様な費用が発生
ニューヨークに本社を置くKalshiの社員数は、昨年11月の大統領選挙前からほぼ倍増し、現在75人に達している。同社は常に約2000の賭けの対象を提供している。ただし、同社の収益モデルは、金融サービスの観点から見ると古典的だ。Kalshiは契約の売買ごとに手数料を徴収する。契約価格は市場が見込む出来事の確率に連動し、1セントから99セント(約1~146円)の間で変動する。
例えば「トランプ政権の最初の離脱者がピート・ヘグセスになる」と予想して10セント(約15円)の契約を1枚買えば、手数料は10%の1セント(約1円)となる。「米政府が2026年に閉鎖する」という予想に対して「イエス」の契約を100枚(50ドル[約1万円]相当)購入すれば、同社のスライド式手数料体系に基づき3.5%、すなわち1.75ドル(約257円)をKalshiが得ることになる。さらにKalshiは、すべてのデビットカードによる入金に2%、アカウントからの出金には一律2ドル(約294円)の手数料を課している。
ただし、手数料体系の多様さのみがビリオネア投資家を引きつける理由ではない。株式のように複数の証券会社で自由に売買できる金融商品とは異なり、予測市場の契約は独自仕様だ。そのため参入障壁を築きやすく、ユーザーを自社の市場に囲い込めるという利点がある。
Kalshiの月間取引高は約10億ドル(約1470億円)に達している。創業以来の累計は69億ドル(約1兆円)で、そのうち64億ドル(約9408億円)は2024年10月以降に発生した。同社は、自社のウェブサイトやモバイルアプリで投機家を直接集めるだけでなく、ロビンフッドやWebull(ウィーブル)などのブローカーにホワイトラベル(提携先のブランドを冠した形)で予測市場を提供し、流動性と規模を拡大している。マンスールによれば、同社は来年さらに十数社のブローカーを追加する計画だ。


