臨床試験の不調で株価が大暴落した「サンバイオ・ショック」から6年。再生医療のパイオニアは、ついに治療薬の販売へこぎつけようとしている。
再生医療ベンチャーのサンバイオは2024年7月、外傷性脳損傷の治療薬「アクーゴ」について製造販売の承認を取得した。アクーゴは交通事故などで脳に損傷を負い、体にまひが残る患者に投与することで、失われた運動機能の回復を目指す治療薬だ。承認から1年、代表取締役社長の森敬太に、上市に向けた意気込みを聞いた。
──アクーゴの承認からまもなく1年。販売開始に向けて今の所感を。
森敬太(以下、森):1年前、深夜のオフィスで審査の結果を待っていた。厚生労働省から電話で「承認」の一報が入ったとき、「よしっ!」と思わずガッツポーズしたことを覚えている。世界初の脳を再生する新薬が、欧米のバイオベンチャーや製薬メーカーに先んじて承認を取ることができたのは大きなマイルストーンだった。創業から24年、長い道のりだったがようやく販売が見えてきたと思うと感慨深い。
アクーゴは、外傷性脳損傷によって中程度から重度の運動まひが残っている患者さんが対象。例えば、車いすの患者さんが杖をついて歩けるようになる、あるいは杖をついている人が杖なしで歩けるようになると考えており、非常に意義が大きい治療薬だ。
──一方で、品質に関する追加のデータを提出して当局に認められるまでは販売できないという異例の「条件付き」承認だった。
森:困っている患者さんがいることと画期的な新薬である意義を勘案して、足りないデータがありながらも、承認されたということだろう。条件付きとなったのは、もう少しデータを見たい厚労省と、十分だと思っているサンバイオの見解にギャップがあったためだ。「宿題」となっていた追加データについては、3回の試験的な製造を行って2回目と3回目ですべての基準値を満たしたため、今年6月12日に申請を完了。現在、審査が行われている。今のところ、当社の下半期(2025年8月1日-26年1月31日)に販売の許可が下りると想定している。
──過去1年間で株価は倍以上に伸びた。投資家からの期待感をどうとらえているか。
森:新薬の承認という事実がまずあったうえで、その後に公表した成長戦略が評価されているのだと思う。具体的には3つある。まず、臨床試験のデータや製造・流通のノウハウを蓄積することで日本を「マザー拠点」とし、新薬を普及させること。そして、サンバイオの創業の地であり大学病院などでの臨床試験の実績もある米国への展開だ。こちらはすでに、最終段階の「フェーズ3」の臨床試験について米食品医薬品局(FDA)との協議を始めている。さらに、サンバイオが当初目指していた脳梗塞での承認にも再チャレンジする。もちろん、株価は株主や投資家それぞれの判断で形成されるものなので推測でしかないのだが、こうした施策を見ていただいていると考えている。



