ベケレの視点はユニークだ。サーチファンド・モデルとは起業家が投資家から資金を集め、有望企業を買収して成長させるファンドの仕組みで、1984年にスタンフォード大学ビジネススクールで考案された。無駄を省いたリーンな構造であるため、新しいツールを迅速に導入することが可能だ。この仕組みは、今では堅牢なエコシステムへと発展しており、スタンフォード大学の分析によれば、投資家に対して100億ドル(約1兆4800億円)以上の価値を生み出しているという。ベケレは、サーチファンド・モデルにおいてAIを既存のシステムに後付けするのではなく、ワークフローに直接組み込むことが可能だと考えている。
市場でも、AIが持つこうした能力を実用化する取り組みが進んでおり、スタートアップ各社は非構造化情報と投資判断をつなぐ仕組みの構築を競っている。その一例が「Metal(メタル)」だ。同社は最近、500万ドル(約7億4000万円)を調達し、プライベート市場向けのオペレーティングシステムを構築中だ。このシステムは、人員を増やすことなく、投資案件数を最大3倍に増やすことが可能だという。
デューデリジェンスの再構築
M&Aにおいて、ターゲット企業を選定し、交渉を行うソーシングが適切な扉を見つける作業だとすれば、デューデリジェンスはその扉をくぐるか否かを判断することだ。ベケレは、このプロセスに直接AIを組み込んだ。
「テクノロジーを活用して業務を革新するのに、これほどの好機はかつてあっただろうか。過去2年間で、GPTやGemini、Claudeといったモデルは、単なるチャットインターフェースから、最小限の人間の監視でマルチステップのプロセスを実行できる自律システムへと進化した」と彼女は語る。また、彼女は次のように指摘する。「これはまだ序章に過ぎない。OpenAIは、2030年までにAIエージェントが創薬のような複雑な課題に取り組むようになると予測している。生成AIは様々な業務の作業時間を平均60%以上短縮でき、技術系の業務では70%の削減も可能だ」。
ベケレは、アトン・パートナーズにおけるワークフローをもとにAIエージェントを訓練し、投資候補の企業がAIをどの程度活用しているかを整理した報告書やデューデリジェンスのレポートを自動的に作成している。「最初のステップは、企業のコアとなる知的財産が防御可能かどうかを見極めることだ。つまり、AIネイティブのスタートアップでも、簡単に模倣できない競争優位性が構築されているかを評価する。次に、データやAIを活用して製品の差別化から人材強化に至るまで、価値をさらに高める手段を見つける」と彼女は言う。
このアプローチはPE業界で広く支持されている。カーライルのソアレスによると、同社では入社初日から社員を対象にAIの研修を行っているほか、「AIチャンピオンズ・カウンシル」を設置し、独自のデータセットを生成AIに組み込むという体系的な展開を行っているという。「これにより、投資担当者は膨大な資料を一つひとつ精査する手間を省くことができる」と彼女は説明する。


