建築資材などを運ぶために使役されていたロバは、今では避難する人々や物資を運んでいる。やせ細り、浮き上がった骨と重い荷車がこすれ合うことで、皮がめくれ上がり傷口から感染を起こすことも多い。
アイエドさんは、何とか探し出して手に入れた治療薬を駆使して、動物たちの治療に当たり、時には手術を行うこともある。しかし、食べ物の不足はどうすることもできず、悔しさをにじませる。
「動物たちの症状の根本的な解決策は、食べることです。すでに何千頭もの動物が、飢餓と脱水症状で命を落としています。早急に支援物資が入ってこなければ、さらに多くの動物が命を落とすでしょう」
若き獣医師の戦場
こうした環境下で、アイエドさんが獣医師として仕事を続けられることも奇跡に近い。
「獣医師が不足するガザで、動物たちを助けることが、子どもの頃からの夢でした」と話すアイエドさんは、海外で医学を学ぶための奨学金の申し出を断り、ガザの大学に新設された獣医学部で学んだ。
意欲に満ちたアイエドさんは、在学する傍ら、経験豊富な獣医師の指導を仰ぎ、自らの診療所を構えて活動を開始していた。しかし、立派だった診療所は、戦争が始まると爆撃で破壊された。破壊と再建は5度くり返されたが、ついには治療に必要な機器を集めることもままならなくなってしまった。
失意にくれるアイエドさんに手を差し伸べたのが、オランダの動物緊急援助団体「アニマル・ヒーローズ(Animal Heroes)」だ。アニマル・ヒーローズは、世界中の過酷な環境下で動物医療や保護活動を続ける団体や個人(動物のヒーローたち)を、獣医学的な知識と資金の両面からサポートしている。既にガザでの支援実績を持っていた同団体は、孤軍奮闘するアイエドさんの情報を聞きつけ、すぐに連絡を取った。
アニマル・ヒーローズの代表を務めるエスター・ケフ(Esther Kef)さんは、当時をこう振り返る。
「アイエドさんと初めて話したとき、その献身的な姿勢に感銘を受けました。しかし、寄付が本当に動物のために使われるかどうか、検証を行うことは必要不可欠です。私たちは、ガザへ直接訪問できない代わりに、信頼できる現地の関係者に彼の証言を検証してもらいました。彼の仕事ぶりは大変印象深く、すぐに彼を正式なチームに迎え入れたのです」
アイエドさんは、同団体から受け取った支援で、簡単に移動でき爆撃にも壊れにくい構造を持つ “アニマル・ヒーローズ ポップアップ・クリニック” を作った。獣医療対応チームのリーダーで獣医師のジェニー・マッケイ(Jenny McKay)博士とはオンライン上で毎日やり取りし、実践的なサポートを受けている。
アニマル・ヒーローズの一員となって一年。アイエドさんは、ポップアップ・クリニックですでに何百頭もの動物たちの治療に携わってきた。時には、クリニックまで直接足を運べない人々と動物のために、危険を冒してガザ南部を巡回している。


