経済・社会

2025.09.17 09:45

屈辱を味わった韓国人労働者 壊れたトランプ政権の正しいトリセツは

2025年9月12日:米国で拘束されていた韓国人労働者らが、仁川国際空港第2ターミナルからバスへ向かう様子(Photo by Hwawon Ceci Lee/Anadolu via Getty Images)

2025年9月12日:米国で拘束されていた韓国人労働者らが、仁川国際空港第2ターミナルからバスへ向かう様子(Photo by Hwawon Ceci Lee/Anadolu via Getty Images)

米移民当局によって拘束された韓国人労働者316人と、日本人3人を含む外国人14人の計330人が12日、韓国・仁川空港に到着した。労働者ら475人が4日、米ジョージア州の現代自動車グループとLGエナジーソリューションが合弁事業を展開する電気自動車バッテリー工場の建設現場で拘束されていた。ほぼ1週間ぶりに解放された人々は空港に着くと、一様に安堵(あんど)の表情を浮かべていた。

日韓両政府の関係者らによれば、建設現場での家宅捜索は有無を言わせぬものだったという。米移民・税関捜査局(ICE)が建設現場を急襲、労働者ら全員にビザの提示を命じた。熟練外国人労働者向けのH1Bビザを所持していた人は難を逃れたが、ESTAビザ免除プログラムやB1短期ビジネス訪問ビザだった人々は全員摘発された。関係者の1人は「H1Bビザは年間発行数が8万5千に制限されていて抽選制。非常に取りづらいので有名なビザだ」と語る。

韓国政府はずいぶん前から、米ビザ制度の問題点を指摘し、対米投資額の多い韓国の実情に合わせたビザ制度に改善するよう米側に求めていた。別の関係者は「H1Bビザは、米国の科学技術が世界一だった20世紀当時のもの。実情に全く見合っていないのに、米国はなかなか対応しようとしなかった」と語る。ただ、韓国企業による米国への投資額は23年、契約ベースで215億ドル(約3兆900億円)と世界最高を記録した。ビザの発給を待っていたら、工場の建設が間に合わなくなる。

関係者の一人は「米国でIT企業などの施設を建設できる技術を持つ労働者を探すのは大変だ」と語る。今回も摘発によって、工場建設は数カ月の遅れが見込まれている。仕方がないので、「B1ビザやESTAで代用する」のが米韓間の暗黙の合意になっていたという。

しかし、トランプ政権は「不法移民の追放」を叫び、摘発を督励している。ICEはノルマに急き立てられるように連日、「不法移民」の摘発に血道をあげている。米国との自由連合盟約により、市民が米国でも労働ビザなしで働ける権利を持つ中部太平洋・マーシャル諸島ですら、在ホノルル総領事館がハワイ在住のマーシャル諸島市民に対し、「夜間に突然自宅を訪ねてくる人がいても、不用意にドアを開けてはいけない」と呼び掛けているという。日韓の関係者らは「今回の事件で、トランプ政権の不法移民対策が他人事でないことがよくわかった」と異口同音に語る。

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文=牧野愛博

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