地球の海の謎めいた深みと、そこに生息する深海生物に比べれば、広大な太陽系とそのなかにある天体の方が、まだわかっていることが多いかもしれない。
深海の80%近くは、いまだ人類に探索されたことはない。数世紀にわたる海洋生物学者の研究にもかかわらず、私たちはその表面をかろうじて引っかいているにすぎないのだ。
そのことをよく表しているのが、ダイオウホウズキイカ(学名:Mesonychoteuthis hamiltoni)だ。
この巨大イカについてはほとんど知られておらず、自然の生息環境で生きている成体をはっきりとらえた映像を撮影できたのは、つい最近である2025年3月のことだ。
このイカが生息しているのは、人間の世界から遠く離れた過酷な環境――つまり、南極大陸を囲む南極海の真っ暗な深海だ。カメラ技術の著しい進歩と、「コロッサル(KOLOSSAL)」プロジェクトのような、その目的に特化した取り組みをもってしても、生体の撮影はこれまで難しかった。
ダイオウホウズキイカは、水深3280~7218フィート(約1000~2200m)という深海で、極度の寒さ、すさまじい圧力、永遠の暗闇からなる世界を泳ぎまわっている。
以前は、ダイオウイカ(学名:Architeuthis dux)が世界最大のイカだと、ずっと考えられてきた。だがそれは、ダイオウホウズキイカの最初の標本が特定され、学名がつけられた1925年までの話だった(最初の標本とは、クジラの胃の中から見つかった2本の触腕だ)。
実際のところ、このイカについてこれまでに知られている情報の多くは、その主な捕食者であるマッコウクジラの胃のなかで見つかった部位から寄せ集められたものにすぎない。



