2025年8月25日発売のForbes JAPAN10月号は「30 UNDER 30」特集。30歳未満の次世代をけん引する若い才能に光を当てるアワードで『Forbes JAPAN』では18年より開催し、7年間で総計300人を選出してきた。今年も4つのカテゴリから30人の受賞者を選出。
ART & STYLE部門で選出されたひとりが、中村元紀だ。京料理の老舗「一子相伝なかむら」の7代目が見つめる今と未来を聞いた。
京料理「一子相伝なかむら」は、2027年に創業200周年を迎える。元々は若狭物を扱う魚問屋から始まり、大正の頃から料理屋に。現在29歳の中村元紀(げんき)は7代目となる。
母は出産の前日まで着物を着て店のサービスを担当していたという。厨房の片隅でじっと調理風景を見つめていた幼少期、「父が片っ端から味見をさせてくれたのは、今考えれば早期教育のようなものだったのかもしれない」と思い返す。父とは性格も異なり、反発することも少なくなかったが、そんな「早期教育」が幸いしてか、味覚においては父と相違があることはほとんどない。
1996年生まれの中村が小学生の頃、実は京料理は難しい時代を迎えていた。日本経済の低迷とともに、接待での利用が激減していたのだ。その一方で、2004年、「菊乃井」の村田吉弘が音頭をとり、中村の父も理事として深く関わる「日本料理アカデミー」が発足。「勘と目分量」だった料理に、科学的な根拠や裏付けを加えた、新たな京料理、日本料理の時代が始まっていた。
「接待客が少なくなったなかで、海外からのシェフが厨房で楽しそうに一緒に働いていたり、父が作った料理を美味しいと言いながら食べているのを、不思議な気持ちで見ていました」
店をいつかは継ぐのかも、と漠然と考えていたが、同志社大学の経済学部に進学。大学一年生の時に、後にフランスでアジア人初のミシュラン三つ星に輝く小林圭シェフの本「KEI」と出会い、衝撃を受けた。洗練された、でも華美ではない料理。フランス料理にも、日本の会席料理のような美しさや雅さがあるのだと目を開かされた。
「昔から、人の言うことやメディアで伝えられている情報を鵜呑みにするのではなく、一次情報を見たいと思うタイプ」という中村は、これまでに知らなかった美食の世界を知るべく、パリを訪れた。



