いまから10年後ぐらいの西側世界で、企業経営者や一部の政治家、政策立案者、あるいは一般市民は、たぶんこんな問いを抱いているのではないか。はたして「復古(Restoration)」は可能なのだろうか、と。
こうした考えが浮かんだのは、英イングランドの古い歴史のある地域、具体的に言えばソールズベリーやドーセットを巡り、続いてマッキンゼーのグローバルサミットに参加するため米ニューヨークを訪れたのがきっかけだった。これら2つの世界にはある種の並行関係が見いだせる。
17世紀半ばのイングランドでは、1646年に国王チャールズ1世が捕らえられ、3年後に処刑されたことで、民主制の歴史的な実験が始まった(そこでは「レベラーズ(水平派)」と呼ばれる急進派が目立つ存在だった)。だがその試みは暗転し、クロムウェルが「護国卿」として独裁的な権力を握ることになった。この期間は「空位時代(Interregnum)」と呼ばれ、現在ドイツで言われる「時代の転換点(Zeitenwende)」とちょっと似ている。空位時代は、クロムウェルの死を経て、チャールズ2世が1660年に国王として即位して君主制が復活(いわゆる「王政復古」)することで、終止符が打たれた。
イングランドの多くの地域、とくにドーセットでは、この復古は問題をはらんでいた。内戦で生じた対立による政治的・宗教的な分断が残っていたためだ。また、ピューリタン(清教徒)が導入した法制度や社会的な制約が覆されたことも、一部では物議を醸した。一方で、王政復古期には小さな文化的ルネサンスもあった。
不確実性と実験に満ちた空位時代から、古い秩序が再建された復古期への移行というストーリーは、興味深くはあってもどこか遠い話のように聞こえるかもしれない。けれどこの図式は、現在起こりつつある秩序編成にも当てはまる面がある。わたしたちは30年続いたグローバリゼーションという“旧体制”を離れ、「空位時代」に入りつつあるとも言える。この時代には旧来の秩序がほころびていき、世界がどのような均衡状態へと落ち着くのかについては、明確な手がかりもあまり与えられないかもしれない。



