カタールはかねて、ガザ戦争の公式な仲介役という立場が、ハマスの政治指導部に対するイスラエルの攻撃から自国を守ることになると踏んでいた。また、中東最大の米軍基地を受け入れていることも、抑止力になると考えてきた。イスラエルの9日の軍事行動は、こうした都合のよい幻想を打ち砕いた。
イラン国営のプレスTVは、米国はカタールに防空システムを配備しているのに、なぜ「カタールを守るために一発も」発射しなかったのかと皮肉っている。
カタールは実際に、米国との軍事協力や、米国による北大西洋条約機構(NATO)非加盟の主要な同盟国という指定の価値に疑問を抱いているかもしれない。さらに言えば、カタールでのトルコの軍事プレゼンスも、カタールに対するイスラエルの攻撃を防げなかった。
サウジアラビア主導の封鎖が始まるとすぐ、トルコはカタール国内の基地で軍事プレゼンスを増大させてカタールを安心させた。こうした動きは、状況を複雑にして、湾岸アラブ諸国による攻撃のリスクを高めるおそれもあった。ちなみに、カタールに2024年7月以降駐留しているトルコのF-16戦闘機6機は最近、カタールの多様な戦闘機群と行ってきた共同演習の飛行時間が1000時間を超えている。
「トルコのF-16はカタール軍機との共同訓練・演習に参加し、カタール空軍の防空能力向上に直接貢献してきた」と、トルコメディアのトゥルキエ・トゥデイは6月1日に報道している。
地政学アナリストのジェン・サーヌチはX(旧ツイッター)への投稿に「イスラエルがドーハでの作戦に成功したことは、トルコのプレゼンスがカタールの領空防衛に不十分なことを間接的に示した」と書いている。
サーヌチはさらにこう続けている。「トルコがイスラエル軍機との交戦を避けたのか、探知に失敗したのか、あるいはカタールが中立を求めたのかにかかわらず、今回の事態は中東のパワーバランスに重大な変化をもたらす可能性があるので、ワシントン(米政府)にも影響を及ぼすだろう」
あらためて言えば、カタールがイスラエルに対して軍事的な報復に踏み切ることは政治的な理由や兵站上の理由から考えにくい。最もありそうなのは、多国間で調整された外交的対応をとることだ。
ただし長期的には、カタールは今回の攻撃をめぐり米国や欧州諸国に不満を示すために、一部の兵器調達で再び中国に接近する可能性がある。そうなれば、中国による湾岸諸国への兵器売却を制限するという米国の目標は損なわれる。たとえば、カタールは防空能力の増強・多様化のために、中国からHQ-22(紅旗-22)やHQ-9B(紅旗-9B)といった戦略防空ミサイルシステムの取得をめざすかもしれない。こうした動きは前例がないわけではなく、カタールは封鎖下の時期に、ロシアからS-400地対空ミサイルシステムの購入を検討していた。
9日の攻撃による煙は晴れたが、その余波がどこまで広がるのか、全容はいまだ見えていない。


