WOMEN

2025.09.18 15:15

戦争の犠牲になった愛犬たち、悔恨胸に人と動物が幸せに暮らす社会を追い求める女性獣医師の戦後80年

赤坂動物病院 名誉院長の柴内裕子さんと愛犬の豆乃(まめの)

またCAPPでは、犬たちが上手にできたことを褒めて育てる「陽性強化法」を全国に普及していった。

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「かつては叩かれたり、庭で放ったらかしにされていた犬たちが〝お利口、お利口”と褒められながら、人と一緒に暮らせるようになりました。本当に素晴らしいことだと思います」と柴内さん。長年にわたる活動の軌跡に胸を張る。

90歳、願いを込めて歩み続ける

柴内さんは、間もなく90歳を迎える。そして今も、動物たちが社会の一員として受け入れられ、活躍できる場を広げるために、いくつもの取り組みへ情熱を注いでいる。それが人と動物のより良い関係を築き、動物たちを幸せにする方法だと信じているからだ。

「時代が進めば進むほど、動物たち、中でも犬たちの仕事は増えていくと思います。人口減少などの社会課題があり、人間同士の助け合いが減っていく中、そこを埋めてくれる存在として、動物たちがさらに求められていく。それを動物医療や社会がどんな風に支えて行けるかで、大きな違いが生まれるでしょう」

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例えば、日本ヘルスケア協会が推進する「ペットパスポートプロジェクト」も、柴内さんが注力する活動の一つだ。医療的なチェックとしつけの基準を満たした犬たちが、加盟飲食店や施設へ入ることのできるしくみの整備を進めている。その中で、散歩中の犬の排泄物はすべてペットシーツで受けるように啓発するなど、動物たちが社会の中で、嫌われることなく、好ましい存在となるためにも気を配る。

さらにCAPPでは、人を対象とした訪問診療や訪問看護に動物たちが同行する試みも始まっている。動物がいることで緊張がほぐれ、和んだ雰囲気の中で診察や治療が進められるようになる。他にも、人の作業療法を犬たちが手伝うしくみも構築中だ。

「ボールを投げる作業療法では、3回投げれば面倒くさくなるという方も、ワンちゃんがボールを取ってきてくれるなら、もっと投げようという気持ちになります。こうした活動を、生きている間にしっかりと、省庁の公認にしておかなければならないと思っています」

東京都清瀬市の信愛報恩会信愛病院では、適性の認められたセラピードッグとの作業療法プログラムを先行的に開始している(写真は2010年頃の様子)
東京都清瀬市の信愛報恩会信愛病院では、適性を認められたセラピードッグとの作業療法プログラムを先行的に開始している(写真は2010年頃の様子)

柴内さんは「犬や猫は、人類にやさしさを忘れさせないために来てくれた存在」だとくり返し語る。私たちはそんな存在を、無慈悲に犠牲にできる世の中をくり返してはならない。やさしい心を喚起する動物たちと人々がふれあい続けるチャンスを絶やすことなく、次の世代に引き継いでいきたいと柴内さんは願う。

「何かをやろうとした時には、いつも素晴らしい人たちが傍にいて、支えてくれました。願いを込めて人生を進むことが、何より大事なのだと思います」

人と動物たちの幸せのために、柴内さんの挑戦はこれからも続く。

柴内 裕子(しばない ひろこ)◎1935年生まれ。日本大学農獣医学部獣医学科卒業。大学附属家畜病院の研究員、放射線研究室の助手を経て、1963年に赤坂獣医科病院(現赤坂動物病院)を継承し、現在は名誉院長。1986年、日本動物病院協会の第4代会長として、人と動物のふれあい活動 CAPP(Companion Animal Partnership Program)を日本で初めてスタートさせる。以降、長年にわたり小学校、高齢者施設、病院への訪問活動を実践している。受賞歴、著書多数。



※アニマルセラピー:米国のデルタ協会(現ペットパートナーズ)を中心に、欧米各国で、ヒューマン・アニマル・ボンド(人と動物の絆)の理念に基づく活動や研究が行われてきた。その中で、人類と長い歴史をともに歩み、支え続けてくれた犬や猫を中心とする、健康で、学習のできた家族の一員を伴って、訪問するボランティア活動として始まった。

連載:獣医師が考える「人間と動物のつながり」
過去記事はこちら>>

文=西岡真由美 、写真=樋口勇一郎

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