アメリカで目にした衝撃の光景
柴内さんは、臨床獣医師としてキャリアを積む一方で、家庭の動物たちの待遇を改善したいという思いに駆られるようになった。戦後も長きにわたり、日本の家庭犬の多くは庭につながれたまま、防犯のために吠えることを主な役割として過ごしていた。それは炎天下でも冬の寒空の下でも変わらなかった。予防薬がまだ普及していなかったフィラリア症(蚊の媒介する寄生虫症で、心臓や血管に寄生し、循環障害を起こす)も蔓延しており、当時の犬の寿命は今よりもずっと短かった。

そんな中、柴内さんは、1978年に日本の動物医療の発展を目指して設立されたばかりの日本動物病院協会へ入会。ほどなく研修と学会で訪れた米国で目にした光景に衝撃を受け、感激したという。
犬たちは飼い主とともにレストランやホテルに出入りし、獣医学生は愛犬とともに授業を受けていた。さらにデンバーの病院では、セラピー犬が小児病棟を訪れる活動まで展開していた。日本の何歩も先を行くアメリカでの人と動物の関係に、柴内さんは大きく心を揺り動かされた。
「日本もこれに近づけなければならない。動物たちを幸せにするためには、動物たちの価値を、獣医師が社会に示していかなければならないと強く感じました」
動物が人を癒し、生きる力になる活動
その思いは、柴内さんをある活動へと向かわせる。その後、日本動物病院協会の第4代会長に就任した柴内さんは1986年、同協会で人と動物のふれあい活動「CAPP:Companion Animal Partnership Program」をスタートさせた。
CAPPは一般的に、「アニマルセラピー(※)」とも呼ばれる。高齢者施設や病院、学校などで、動物の持つ温もりや優しさに触れる機会をつくり、さまざまな効果を生み出す。医療現場では、補助療法として取り入れられることもある他、小学校などでは、子どもたちに動物たちとの正しいふれあい方や、命の大切さを学ぶ貴重な時間を提供している。犬や猫をはじめとする動物たちと、その飼い主がボランティアとして参加するほか、獣医師や動物看護師、経験を積んだボランティアのリーダーが、人と動物、双方の安全確保と衛生面、しつけの管理を担う。

しかし、当初は動物たちを伴う訪問について、未経験の受け入れ先から、アレルギーや事故に関する懸念の声があがることが予想された。そこで柴内さんはそうした事態に備えて、日本動物病院協会の信頼性を向上するために、公的な資格である公益社団法人の認可を求めて、厚生省 (現・厚生労働省)へ何度も働きかけた。
認可まで時間を要する中で、海外の動向を熟知した厚生省の担当官から紹介を受け、山形県の高齢者施設「みこころの里」を尋ねてみると、そこには運命的な出会いがあった。施設長の飼い犬で、ビューティーという名前のコリー犬が、入居する高齢者とふれあいを楽しみながら、お互いに生き生きと暮らしていた。
CAPPが目指す姿の一端を垣間見た柴内さんは、厚生省への説得を粘り強く続け、ようやく公益社団法人の認可を得ることに成功した。そんなCAPPの訪問も、現在までに約2万4000回に上る。心配された事故やアレルギーの発生もなく、実績を積み上げている。
「本気になって取り組んでくれた全国の獣医師の先生方と、素晴らしいボランティアの皆さん、そして何より、最大の働きをしてくれる犬や猫たちのおかげです。人間がきちんと管理すれば、たくさんの動物たちに活躍の機会が生まれます」



