経営・戦略

2025.10.07 14:15

ビジネス要諦は今、『マルチステークホルダー・エンゲージメント』━━共創する経営力を目指せ

(R)Brunswick Group

対話の“結節点”をどうつくるか?

戦略課題対応型マルチステークホルダー・エンゲージメントの成否を分けるのは、「誰が全体を見渡し、まとめるのか?」という設計である。いわば、“対話の司令塔”である。

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日本企業では、多くの場合、経営企画や経営戦略部門がこの役割を担っている。だが将来的には、課題ごとにハブとなる部門が入れ替わる柔軟な構造が理想だ。広報がメディア対応を、IRが投資家対話を、法務が訴訟リスクを――自律的かつ戦略的に動ける各部門が、必要に応じて主導権を持つ。そのような動的なエンゲージメントの実現には、各部門のスキル高度化と、経営層との連携強化が不可欠となる。

「語るべきものがある」企業が、最終的に強くなる

マルチステークホルダー・エンゲージメントにおいて重要なのは、単なる技術や手法ではない。「語るべき価値観を持ち、それに沿って行動し、対話する企業であるかどうか」である。

ある日本企業は、提携先企業が人権問題を抱えているという指摘を受け、現地ステークホルダーとの対話を重ねた末に、あえて事業撤退を選択した。短期的には損失だったかもしれない。しかしその決断は、自社の価値観に照らして正しいものであり、結果的に長期的な信頼を獲得した。

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「聞く力」がある企業は尊敬され、「語る力」がある企業は信頼される。そして、その両方を兼ね備えた企業だけが共感を得る。

 

「説明する経営」から、「共に創る経営」へ

マルチステークホルダー・エンゲージメントは、もう一段階、進化する必要がある。

それは、「説明責任の遂行」から、「共創による未来の設計」へと、視座を変えることだ。

ブランズウィック・グループが今回のレポートで示したのは、単なる理想論ではない。すでに、戦略課題対応型マルチステークホルダー・エンゲージメントに取り組んでいる企業の方が、業績面で高い成果を挙げているという事実がある。

価値を創出してステークホルダーに還元しえた企業のみが存在を許される。多くの場合その価値は金銭価値、利益、という形で表現される。本来的には、持続的に多くのステークホルダーに対して価値をもたらし続けることができる企業が評価されるべきであると考える。そして、経営とは、その価値を創出するための戦略を描くだけではなく、その戦略に意味を持たせる「語り」と「共感」のプロセスだ。

それは、誰かひとりが担うものではない。組織全体が、社会との“対話インフラ”を持ち、変化に臨機応変に対応できる柔軟さと、価値観に根ざした一貫性の両方を兼ね備えてこそ、初めて可能になる。

いま、企業に求められているのは、「強く語り、深く聴く」対話し、「共創」する経営力である。

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