企業を取り巻く“静かで速い変化”に、私たちはどこまで備えられているか?
脱炭素、分断、AI、炎上、そして戦争。2020年代の企業活動を取り巻く現実は、もはや変化の連続ではなく、「変化そのものが常態化」した時代に突入したと言っていい。しかもその変化は、目に見えないところから静かに、そして一瞬で爆発的に現れる。
こうした環境においては、従来のように想定された関係者だけを見た経営では大きなリスクに直面する。いま、企業に求められているのは、あらゆる関係者(=マルチステークホルダー)の状況を俯瞰し、自ら進んで、かつ戦略的にステークホルダーとの関わりを設計し、推進する力だ。
この「マルチステークホルダー・エンゲージメント」こそが、現代の経営における新たな基本動作である。

対話の要諦は「語る」と「聴く」が両輪であること
対話の基本は「聴くこと」にある。多様な価値観、文化、利害の間にある違いを受け止める。これはまぎれもなく、グローバル社会を生き抜く前提条件だ。
だが、それだけではエンゲージメントは成り立たない。企業として「語るべき価値観」=パーパスやミッションが明確であることが、対話の出発点となる。
たとえば、気候変動への対応、労働環境の整備、情報開示の方針――こうしたテーマは単なる情報伝達では済まない。正解がない問が多いからこそ、企業としての倫理観、判断基準、未来への姿勢が問われる。
「なぜそれを大切にするのか」「どこに向かっていくのか」を言語化し、語ることができてこそ、相手の言葉に真に耳を傾ける対話が可能になる。
つまり、企業が「対話する主体」となるには、まず語る力(ナラティブ)と、聴く力(共感と理解)を両立する構えが必要なのだ。



